「性奴隷」とは何か

池田 信夫

NYタイムズの田淵記者とのやりとりでわかったが、NYTはsexual slaveryを国際刑事裁判所のenslavementの意味で使っているのだという。これは人身売買を禁止する規定だ。


この意味での「性奴隷」が戦時中にあったことは明らかだ。内地でも、娼婦の多くは身売りしてきた娘だった。吉見義明氏のいう広義の強制性の主要な内容も人身売買だが、それは世界中にあった。これまで日本は河野談話で人身売買への「政府の関与」は認めており、謝罪もしている。だから彼らが「性奴隷=人身売買について日本政府は謝罪せよ」というのなら、その話は終わっている。

それ以上、何を認めろというのかがわからない。日本では奴隷制は禁止されていたので、政府や軍が人身売買を行なった事実はない。慰安所を経営したのは民間業者であり、慰安婦は一般から募集され、二等兵の20倍から50倍という高給で雇用されていた。ただしそれは公娼だったから、軍が管理していた。これは今、風俗営業を警察が管理しているのと同じだ。

今でも人身売買は世界各地で行なわれており、アメリカ国務省は日本の女子高生売春が人身売買だとかいう荒唐無稽な警告を出している。このように人身売買は、民間業者がやるのだ。法的に人身売買を認めたのは、1789年の合衆国憲法ぐらいである。第4条第2節第3項の「逃亡奴隷条項」には、こう規定されている。

何人も一州においてその法律の下に服役又は労働に従う義務のある者は、他州に逃亡することによって、その州の法律又は規則により、右の服役又は労働から解放されることはなく、右の服役又は労働に対し権利を有する当事者の請求に応じて引き渡されなければならない。

「人道に対する罪」に時効はない。NYTは合衆国憲法を制定した建国の父を「性奴隷」の罪で告発すべきだ。