ダニエル・ピンクによると、ブラック企業も最先端の企業に?

松本 孝行

お世話になっているコワーキングスペースでTEDの鑑賞会というのに参加してきました。何度か参加していますが、今回は特に示唆に富む動画を見ることが出来ました(イベントに興味のある方はこちらをご覧ください)。

ダニエル・ピンクと言う人をご存知でしょうか。ノマドなどをしている人は知っているかと思いますが、フリーエージェント社会の到来という本を書いた方で著名人です。そのダニエル・ピンクという方のTED動画を見たんですが、最終的に彼の主張を突き詰めた先にあるのは日本のブラック企業ではないのか?と感じました


そのダニエル・ピンクのTED動画は「やる気に関する驚きの科学」というものです。2009年なので5年前の動画になりますが、この動画で紹介されているものはアメリカ社会にあるアメとムチ、つまり会社でいい成績を残せばインセンティブとして多額の報酬を与え、その逆に成績が悪い場合にはクビを含めた厳しい措置をとるというものです。これによって多くの企業経営ではモチベーションを上げ、業績をあげようとしているという点に一石を投じようとした主張のようです。

彼の主張では、実験によっても外部要因であるこれらの報酬や罰則というのは単調な仕事では大きな成果を上げることが出来たけれども、少しでも考える必要があるクリエイティブな仕事を与えた場合には逆に成果が下がるというのです。有名なろうそくを壁につける実験で高い報酬を約束された人たちは、思いつくまでの時間が長く逆に報酬を与えなかった人たちは早く正解を導き出したそうです(参照)。

逆に外部要因のアメとムチではなく、彼は内部要因である「自主性・成長・目的」のいずれかが出来るとわかれば人はモチベーション高くクリエイティブな仕事をこなす、というのです。確かに自主性や成長、社会に影響を与えるなどの目的があれば、モチベーションは高くなります。アメリカの企業は内部要因による動機づけを用いるべきだ、と主張しています。

ただ残念ながら日本ではすでに外部要因のアメとムチではなく、内部要因の「自主性・成長・目的」によってモチベーションを上げて働くという企業が存在しています。それがブラック企業です。

例えばブラック企業として名前の上がるワタミでは自腹でお酒を買ってお店に並べて、お客さんに提供したという話があります(参照)。まさに自主性を重んじて、自分自身で考えて行動した結果です。しかしこれは写真の従業員が健康そうに見えないという点も含め、大バッシングを受けて、現在ではページが見れなくなっています。

もう一つの成長、これもブラック企業でよく聞かれる言葉です。特に長時間労働が当たり前になっているような企業に就職している若者は「成長のため」と言っています。結果的にそれで体を壊す人も出てきたり、うつ病になったりする人も出てきます。成長のためという内部要因に基づいて行動した結果が企業の業績は上がるのかもしれませんが、個人の健康と幸福を損ねることを引き換えにしています。

最後の目的、これもよく社会貢献やお客様の笑顔なんていう言葉で言い換えられたりしています。また例に出すワタミですが、ありがとう集めるという目的を持っています。これもお客さんに喜んでもらってありがとうを集める、ということになるかと思いますが、これが行き過ぎると先ほどの例のように自主的に自腹を切ってまで貢献しようとして、ネットで大バッシングを受けるということになってしまいます。

つまりこのような内部要因によって動機づけを行うことは確かにモチベーションが高くなることは実験結果からも間違いないでしょう。ブラック企業で一生懸命働いている人達を見てもそれは間違いないと思います。ただ、個人の健康や幸福につながるかどうかはまた別の問題です。ブラック企業のように内部要因による動機付けを放置しておけば、自分自身の時間を費やして健康を阻害してしまうことにもつながりかねません。

また実験では「金銭的なインセンティブが全体のパフォーマンスを落とす」というような結果だったといいます。これを企業にそのまま当てはめるならば、低賃金の方が全体のパフォーマンスを上げるということにもつながりかねません。企業経営者からしてみれば賃金を与えなくていいし、しかも高いパフォーマンスを上げてくれるなんて願ったりかなったりでしょう。低賃金で働かせるブラック企業などまさにこの理論が当てはまるんじゃないでしょうか。

ダニエル・ピンクの動画では企業のパフォーマンス、仕事のできという点については確かに内部要因をいかにうまく刺激するかが重要かがわかります。しかし個人という視点に立って考えれば、話は変わってきます。「内部要因による「自主性・成長・目的」を動機づけにする会社」と「外部要因による高い報酬を動機づけにする会社」、どちらのほうが果たして自分自身は幸福でしょうか?