ダイエーの看板を消すことで、イオンは危機を乗り越えられるか

大西 宏

ついにダイエーがイオンに飲み込まれ、来春にはダイエーの看板もなくなるそうです。かつては中内功元会長がチェーンストア革命を旗印に、長く流通業界のトップに君臨していた三越を1972年には売上で追い抜き、文字通り日本の流通業をリードする企業となった時代もありました。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだったのです。しかし今となっては、その面影はありません。イオンの完全子会社となり、ダイエーの看板も来年には消えます。


その勢いがあった頃に、ダイエー担当として仕事をさせていただいたのですが、毎日がアンビリーバブルな体験の連続で、少々のことがあっても驚かない免疫ができたように感じています。

しかしダイエーは時代の変化に対応できなかった、というか進化できないままに、規模だけが拡大していき、バブル崩壊を引き金に次第に経営が悪化し、資金繰りも立ちいかなくなります。

バブルが崩壊し、ダイエーを襲ったのは2つの衝撃波でした。

ひとつは、地価はあがりつづけるという土地神話と、事業の拡大を前提に買いあさっていた不動産が暴落してしまったことです。

しかし、それでもダイエーの売上は伸び続けていました。バブル崩壊後の1994年には、忠実屋、ユニードダイエー、ダイナハを合併し、売上高2兆6000億円規模の全国チェーンが実現したのです。しかし1990年後半にはいって、突然、成長力も収益力も失ってしまったのです。時代の潮目が大きく変わったのです。

第二の衝撃波は、日本型の総合スーパー(GMS)を襲った業態の限界でした。ダイエーの経営危機が表面化したのは1998年の2月決算でした。売上が前年割れとなり、最終損益が赤字に陥ります。ダイエーと経営危機の進行と軌を一にして、2001年には、マイカルが経営破綻します。

さらに追い打ちをかけるように、大規模小売店法が2000年に廃止されます。大規模小売店法は、零細な小売業の保護が名目でしたが、大型チェーン店間の競争を抑止する役割も果たしていたのです。大規模小売店法が廃止されたこと、またホームセンターやドラッグチェーン、衣料チェーンなどの業態の台頭もあり、結果として小売業間の競争が促進され、総合スーパー(GMS)の営業利益率を押し下げる要因となってきました。

その後は2兆円を超えて膨らんだ有利子負債の処理をめぐって、3度に及ぶ金融支援、さらに2004年には産業再生機構からも支援を受けたのですが、ついに再生することなく、イオンに統合され、看板も来年には消えるということになりました。

ダイエーが抱えていたのは、ひとつには資金繰りの厳しさがあり、店舗改装などへの投資ができなかったこともあるでしょう。めったに行かないのですが、近所のダイエーに行くと、店舗そのもの、また店内設備などが古く、まるでタイムスリップしたような感覚に襲われます。

しかし、それより感じるのは、内部の人材育成の失敗です。実質は、メーカーや卸におんぶにだっこの状態にもかかわらず、メーカーとのコラボレーションというよりは、メーカーや卸叩きばかりのバイヤーでは、小売業にとって生き残りの重要な鍵となる魅力あるPB開発などはありえません。

さらに仕組みやシステムの後進性です。日本のコンビニは物流やシステムで小売業に革新をもたらしたのですが、日本の総合スーパー(GMS)は、その革新の波に乗り遅れてしまいました。それは収益力に跳ね返ってきます。

さてマイカルを飲み込み、さらにダイエーを飲み込むイオンですが、イオンは盤石なのでしょうか。いやイオンにも黄色の信号が点滅しはじめています。2014年の第一四半期決算で、本業の総合スーパー(GMS)事業も、食品スーパー事業も、ともに営業赤字となるという衝撃がイオンを襲っています。
イオン、「本業のスーパーが赤字」の深刻度 |  東洋経済オンライン |

売上は吸収合併によって拡大してきたのですが、問題は中味です。2014年第一四半期決算だけでなく、通期で見ても、営業収益営業利益率が2012年2月には高度成長期並みの4.1%を達成したのが、2013年2月から再び低下しはじめ、2014年2月には2.8%にまで落ち、収益力が低下していることがが気になります。イオンも正念場を迎えているのです。

業態間の競争もあり、消費者にとっては、わざわざ総合スーパー(GMS)に行く魅力そのものが薄れてきていることは言うまでもないことで、「脱総合スーパー」なり「新次元の総合スーパー」への進化がイオンにも求められていますが、ダイエーの完全子会社化で、事業再編と事業変革へのチャレンジが加速され、規模だけでなく、消費者にとって魅力ある業態への進化を促す動きに期待したいところです。
脱GMSでダイエー再建の裏でイオンが描く首都圏攻略の成否|ダイヤモンド・オンライン