朝日新聞の第三者委員会のためのアジェンダ

池田 信夫

朝日新聞の慰安婦報道についての第三者委員会のメンバーが決まった。委員長が元名古屋高裁長官の中込秀樹氏、委員が外交評論家の岡本行夫氏、国際大学学長の北岡伸一氏、ジャーナリストの田原総一朗氏、筑波大学名誉教授の波多野澄雄氏、東京大学大学院情報学環教授の林香里氏、ノンフィクション作家の保阪正康氏の計7名だ。


注目されるのは、外交の専門家が3人(岡本・北岡・波多野)も入っていることだ。それも岡本氏は外務省OBで、北岡氏は安倍首相のブレーンとして集団的自衛権をまとめた、朝日の天敵である。外交のプロなら、コアの問題が請求権であることは理解しているだろう。

「朝日文化人」がいないことも特徴だ。しいてあげれば保阪氏が朝日の立場に理解を示しているが、彼も強制連行がなかったという認識は同じだ。他にも秦郁彦氏などが準メンバーだから、常識的な線でまとまるだろう。先日の記事でも書いたように、まず次の3点の検証が必要だ。

  • 検証記事では「強制連行」について曖昧な記述をしているが、記者会見で杉浦編集担当は「強制連行はなかった」と認めた。この事実関係を明確にし、訂正すること。

  • 1991年8月の植村記者の記事には捏造の疑いが強く、当時のソウル支局長(小田川興氏)が大阪社会部にスクープを提供することもありえない。この2人に事実関係をただすこと。
  • 1997年の特集記事について、当時の清田外報部長が自分の誤報を握りつぶした疑いがある。これも本人を呼んでただすこと。

史実はほぼ明らかだが、最大の懸案は世界に広がった「性奴隷」の誤解をどう解くかだ。NYTのタブチ記者によれば、これは国際刑事裁判所のsexual slaveryの定義によるそうだ。これは人身売買の意味であり、米議会決議なども「史上最大の人身売買」などと非難している。

私が「人身売買は違法だったので政府の問題ではない」といっても、タブチ記者は「違法な人身売買をさせた日本政府が悪い」という。これは「麻薬売買は違法だから、売買をさせた日本政府が悪い」といって批判するようなものだが、この点はすでに日本政府が1992年と93年に謝罪しており、新たな請求権の根拠にはならない。

ただ世界のほとんどの人は、彼女のレベルにも達していない。私のところに来る外人のツイッターは、慰安婦=性奴隷=強制連行=人身売買=ホロコーストといった混乱した話をする。この誤解を訂正することは困難だが、まず朝日新聞が正しい事実関係を確定し、英文で海外に発表する必要がある。

朝日は「吉田証言は嘘だが、強制連行はあったかもしれない」という話をしているが、少なくとも外交的に係争中の朝鮮半島では、軍が慰安婦を連行した事実はない。この点を朝日が全面的に撤回すれば、海外メディアも事実関係を調べ直すだろう。

そうすれば元慰安婦の証言も嘘だと気づき、慰安婦問題そのものが「壮大な虚構」であることは、プロならわかるはずだ。政府は河野談話から踏み出せないので、朝日新聞にできることのほうが多いと思う(この点は朝日のOBも同意した)。