「ホドラー展」我々の知らないスイスがある

アゴラ編集部

IMG_6603

フェルディナント・ホドラー(1853年~1918年)の回顧展が、10月7日から東京上野にある国立西洋美術館で開かれています。19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したホドラーは、スイスの「国民的画家」とも言われる人物です。日本ではあまり知名度は高くないものの、39年前の1975(昭和50)年に同じ国立西洋美術館で大規模な展覧会が開かれました。


実は当方、高校生時代に前回のホドラー展を見ています。遠い昔なので記憶はあいまいながら「大きな人物画」が多く、その人物像の圧倒的な存在感に驚いた覚えたあります。今回、報道向けの内覧会で約40年ぶりに改めてホドラーの業績を眺めてみたんだが、やはり大画面に描かれた人物画の迫力は魅力的。しかし、スイスの山岳や湖を描いた風景画もなかなか引き付けられるものがあります。

IMG_6567
『オイリュトミー(Eurhythmy)』1895年、油彩、カンバス、ベルン美術館

今回のホドラー展は、日本とスイスが国交を結んでから150年を記念するものだそうで、同展を企画した国立西洋美術館の研究員である新藤(しんふじ)淳氏によれば、スイス大使館より数年前からアプローチを受け、スイスを代表する画家であるホドラーを紹介する展覧会にこぎ着けたらしい。スイスの画家と言えば、最近ではフェリックス・ヴァロットンが「発掘」され、注目を集めているんだが、企画が進み始めたのはヴァロットン発掘より前。いよいよホドラーという真打ち登場、というわけです。

新藤氏は「ホドラーは世紀末に活躍し、グスタフ・クリムトなどからも影響を受けた画家ですが、当時の世紀末芸術とは少し距離のある特別な存在だと思います」と言っていました。第一次世界大戦の時代とも重なっているものの、彼が描いたのは自分の愛人という一人の女性の『死』であり、大戦争で多くの人が犠牲になっている現実とは距離がある、というわけです。また、ホドラーは、舞踊や舞踏といった人間の身体性を描くことに精力を傾けた画家でもあり、スイスの山や湖を描いた風景画を見ても、どこか牧歌的で浮き世離れしたところがあります。

IMG_6575
ホドラーは、類似した形態の反復で画面を構成する「パラレリズム(平行主義)」を提唱し、人間の身体の動きや自然による「リズム」を描こうとした。

スイスと言えば「永世中立国」なんだが、同国がそうした国是を採るようになった原点とされているのが、イタリア戦争でフランスに惨敗した1515年の「マリニャーノの戦い」です。その後、スイスは拡張政策を転換し、産業振興策の一つとして傭兵を輸出するようになる。ようするに、資源小国で貧しいスイスは、周辺国と戦争を起こして領土争いをするより、兵士を他国へ賃貸することを選んだわけで、永世中立の背景には経済的な利害がある。ホドラーは、スイス国立博物館の壁画に悲惨なマリニャーノの戦いを描き、永世中立政策の原点を冷徹な視点で再現しました。

IMG_6583
鉄道を利用してスイス全土で風景画を描いたホドラー。

ところで、内覧会では、知人である鉄道写真家の櫻井寛氏を久しぶりに見かけ、ちょっと立ち話をしました。櫻井氏はスイスの鉄道も積極的に撮影しているんだが、ホドラーが活躍した時代はちょうどスイスに鉄道が整備された時期に重なり、ホドラーの風景画は新たな移動手段となったスイス鉄道を利用して描かれた、ということを教えてもらいました。そういえば、今回のホドラー展の協力企業にユングフラウ鉄道グループの名前があり、櫻井氏が言うようにホドラーと鉄道には深い関係があるんでしょう。

今回のホドラー展、ベルン美術館などスイス国内の多くの美術館や個人が所蔵している油彩画や素描など約100点が展示され、風景画、人物画、リズムと人間の舞踏をテーマにした作品群、さらにスイスから輸送の困難な壁画の資料やコンテなど、各テーマによって画家の全体像を俯瞰できるように構成されています。世紀末芸術に独自の立ち位置で存在感を誇示するホドラー。我々の知らない、また別のスイスを感じられる展覧会です。

日本・スイス国交樹立150周年記念 フェルディナント・ホドラー展
2014年10月7日(火)~2015年1月12日(月・祝)。開館時間は午前9時30分~午後5時30分、毎週金曜日のみ午前9時30分~午後8時(入館は閉館の30分前まで。上野公園での「創エネ・あかりパーク(R)2014」開催にあわせ、11月1日(土)、2日(日)は午後8時まで開館、入館は閉館の30分前まで)。休館日は月曜日(ただし、10月13日、11月3日、11月24日は開館、翌火曜日休館)、12月28日~1月1日休館。
主催:国立西洋美術館、NHK、NHKプロモーション 共同企画:ベルン美術館 後援:外務省、スイス大使館特別協力:ジュネーヴ美術・歴史博物館 協賛:スイス・リー・グループ、大日本印刷、中外製薬 助成:スイス・プロヘルヴェティア文化財団 協力:スイス政府観光局、スイス インターナショナル エアラインズ、ネスレ日本、ルフトハンザ カーゴAG、ユングフラウ鉄道グループ、西洋美術振興財団

※この記事で掲載した写真は、国立西洋美術館の特別な許可を受けて撮影したものです。

つれづれ日記 byのんの
ホドラー展。


Sex doesn’t sell: the decline of British porn
the guardian
英国では、様々な規制や多くの人たちの努力の結果、性の商品化やポルノ産業が衰退しつつある、という記事です。セックス産業に従事している人も少なくなっているらしい。彼らのほとんどは父親でもあり、自戒を込めて業界を去って行く、というわけ。反面、英国内でのセックス産業の活動は衰微しつつありながら、東欧などでは依然として多くの人たちが関わっています。ポルノ産業が手軽に始められ、社会的に容認され、儲けの多いビジネスだった時代は、少なくとも英国ではすでに過去のモノになっている。ただ、人間の根源的な欲望はなくなりはしません。規制が厳しくなれば、地下へ潜り、陰湿化し、性犯罪者を生み出す可能性も高くなる、という指摘もあります。

投票!2014年ノーベル化学賞は誰の手に??
化学者のつぶやき
明日10月8日の夕方にノーベル化学賞の受賞者が発表されます。今回は残念ながら日本人の受賞は期待薄なようで、このブログによれば数人に可能性がある程度らしい。今年の物理学賞を取った青色LEDの中村修二カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授もその中に入っているんだが、化学賞にもなるんですかね。

USBに設計上の致命的な脆弱性が発見され、そのコードが公開される
Gigazine
USBほど広く使われた規格はありません。PC用の接続端子は、かつてPS/2とかMacではADB(Apple Desktop Bus)なんてのがありました。こういうのは今ではほとんどUSBになっています。しかし、この記事によると、USBは根本の設計から修正しないと危険過ぎる部分があるらしい。発見した研究者らはこの部分を秘密にしてたんだが、別の研究者らがその悪用法を暴露したそうです。USBに変わる新たな接続端子の規格が生まれるんでしょうか。

超高輝度・大光量の省エネ型LED照明を開発
NEDO
ノーベル物理学賞は日本発のLEDが受賞したんだが、これは自動車や鉄道用車両などのヘッドライトとして利用されているHID(High Intensity Discharge lamp)ライトより約53%も省電力のLEDライトができた、というリリースです。HIDライトも水銀灯やハロゲンライトより省エネなんだが、これはさらに高効率。フィンがたくさんついていることでわかるように、放熱の方法が工夫がみられる。熱伝導に優れた基盤を併用することで、LEDチップを高密度で実装したようです。

0001
今回開発されたLEDライトとチップオンボードモジュール(NEDOのリリースより)。

There’s An ‘Impossible’ Lunar Eclipse Happening This Week
BUSINESS INSIDER
明日10月8日に皆既月蝕が起きます。日本では約3年ぶり。天気が良ければ、ほぼ日本全域で観察できるようです。部分食が始まるのが18時14分くらいで終わるのが21時35分くらい。月食は原理的に満月か満月に近い状態になっているんだが、完全に見えなくなる、というものではありません。夕焼けと同じように、太陽からの赤色の波長の光が影響し、月食中の月の色は赤黒くなります。また、今回の月食では「スーパームーン」のように月が通常より大きく見えるそうです。

00002
国立天文台、天文情報センターより。


アゴラ編集部:石田 雅彦