日本の実家のそばにできたディスカウントストア、ドン・キホーテのコンビニ版、「驚安堂」。覗いてみるととにかく安いのです。コンビニ弁当より数割安で200円台、300円台でずらり並びます。お菓子もシュークリーム60円と言った具合でちょいと手を出してしまいたくなるような金額、そして食べてみても悪くないのです。ここまで安いと周辺の弁当屋やコンビニにも影響するだろうな、と思わず心配になってしまいますが、ここまでして安くするのは日本の景気が戻っていないという消費者側の心理というより売り手側の市場へのインパクトを求めた業界間の戦争としか思えません。
つまり、別にそこまで安くしなくてもよいのに誰も追いつけない金額で提供することで周辺のパイを奪い取るという戦略は完全競争下にある小売店や飲食店、ファーストフード店の絶対的な戦略であるとも言えます。
駅そばにあるマクドナルド。何故ここが24時間営業なのかほとんど皆目理由を見つけることもできないし、終電以降、客がくる場所でもありません。なぜなら周りは学校なのですから。マックで100円メニューを押していますが、コンビニに行けばほぼ同じ金額で売れ筋のセレクションが多く、ドンキの「驚安堂」に行けばもっと「面白いもの」に出会うかもしれない楽しさもあります。つまり、マックにはある決まった商品しかなく消費者は否が応でもハンバーガーの類を食さなくてはいけません。一人ならいいけれど複数いればバーガーの人、寿司の人、ラーメンの人と分かれるかもしれません。今の人たちは我儘ですから自分の好きなものをゲットすることに最大の価値を見出します。あえてマックに行くとすれば座って話をしながら食べられる事でしょうか? それならマクドナルドでなくてもよいという事になります。
マクドナルドの2014年12月決算が上場来初の94億円の赤字になりそうだと発表しました。既存店売り上げは15~20%減で推移、その理由は中国の期限切れ鶏肉にその矛先を向けていますが、それは表向きで実際にはその前から下落は止まっていません。だからこそ、原田泳幸氏は切られたわけです。では、なぜ、下落は止まらないかといえば私は日本の消費者と業界が速いスピードで変わっていったのにマックはマックでしかなかったところに限界があったとみています。それは逆に言えばアメリカ資本のチェーン店が環境対応しにくいという事にもつながるでしょう。巨大企業は小回りが利かないという最大の弱点を突かれてしまっているのです。これから言えることは今から10年後にもスタバが流行っているという確信もないとも考えられるのです。
もうひとつの巨人、サムスンの2014年7~9月期の連結営業利益は前年同期比6割減となり、下落に加速度がかかってきました。特に気になるのは中国ではスマホのシェアが8.4ポイントも下がり一気に三位まで落ちてしまっています。インドでも13.3ポイント下落、世界レベルでも7.1ポイント下落です。
サムスンは内部留保も厚く手もとの現金も巨額であるためすぐにどうこうすることはないと思いますが、この下落の加速度はまだ当面続きそうな気配があります。理由は価格競争に敗れたことでしょう。スマホはアップルかサムスンか、という横綱時代を築きましたがアップルがいち早くシェア競争からは脱落し、サムスンの一人勝ちかと思われました。ところが中国のメーカーが技術力を上げてきたこと、サプライチェーンが確立されたことでかなり高性能のスマホが半額以下でゲットできるのであります。
例えば私がたまにしか来ない日本で使う格安スマホ。本体は16000円程度の中国製。使ってみれば正直、カナダで使っているアップルと比べ全くそん色ありません。画面は大きく、薄く、反応も悪くありません。つまり、使い手の目的次第では全く気にならないのであります。サムスンは正に日本の家電メーカーが歩んだ過ちと同じ道を辿っているようにも見えます。それはスマホで頂上に立ってしまい、今さら下に降りられない勝者の弱みであります。
マクドナルドもサムスンもそういう言う意味では似た体質にあるとも言えます。あるビジネスモデルにおいて世界を制覇し、そのモデルをさらに改善し、完璧なものに仕立て上げることで一つの完成品を作り上げるもののそれがシャープの一本足打法と同様、フレキシビリティを持たせられないことになるのです。あるいはソニーのトランジスタやウォークマン神話が背後霊の様についていることにも重なります。
殻を破れるか、ここにこの二つの会社の10年後がかかっています。残念ながらグローバル化により両社とも大きくなったのにグローバル化で消費者の常識も変ってきたことに対応しにくくなったということでしょう。
問題はマクドナルドは日本からなくなっても日本経済としては困らないのですが、サムスンは韓国からなくなると韓国そのものを揺るがすことになり大問題になります。勿論、そんな極論をすること自体不謹慎であるのですが、国家の体質が一方向に特化しているといざというとき対応できないくなるという警告でもあるのです。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年10月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。