アベノミクスという響きがやや色あせてきた感じがするのは私だけでしょうか? 鳴り物入りの三本の矢。何本飛んだとか的を外した矢とか様々な外野の声もありましたが私は今日まで支援してきたつもりです。それは歴代の首相ではできなかったマインドの変化を作り上げ、精力的に活動をし続けてきたことに対する応援であります。
ところが掛け声に対して全体的な盛り上がりは明らかに下がってしまいました。これも事実です。理由は時間が経ちすぎたという意味で「メンタルな部分での息切れ」としておきましょうか?
その上、年末の消費税再引き上げ決定の「儀式」が迫る中、一本目の矢であった異次元の金融緩和を通じた刺激策もどうやら限界に達した気がします。
アベノミクス一本目の矢は金融緩和で為替を刺激し、円安に誘導、更にそれに乗じて株価対策を行い、ミニバブル状態を作ることを目論みました。それは確かにうねりながらもどうにか、ここまでやってきたのですが、円安誘導に対する悪影響の方が目につき過ぎてしまいました。慢性化する貿易赤字のその幅は膨れ上がっています。その理由はLNGを含めた輸入コストの増大であり、メーカーなどの長期為替予約も切れ、順次価格の引き上げを行っていきました。特に目立ち始めたのは今年春から夏ぐらいからでしょうか? 正に8%への消費税引き上げの時期に符合してしまうのです。決して便乗ではなく、この機を逃したら値上げできるチャンスがなくなると考えていた企業が多かったのでしょう。
更に円安になっていけば今後、市民生活への影響は計り知れないと懸念が出てくるのも当然であります。そしてその価格的影響は来年にならないと見えません。それを見越してか、政財界からの「円安行き過ぎ」の強いボイスとなったのです。
今、更なる円安を推す声はマイナーな部類ではないでしょうか? 日本は内需の国であり、輸出企業は海外進出を進めた結果、為替の影響を受けにくくなっています。本来であれば円高の方が日本にはメリットがあるし、通貨安を喜ぶ国は世界でもあまりないのが実情です。
為替については円高、円安でそれぞれ喜ぶ人、苦しむ人がおり、そのボイスの大きさで我々は惑わされやすいのですが、原発が動かない日本に於いては円高の方が相対的メリットは大きいことは確かではないでしょうか? 私がアベノミクスが色あせたというのは、国民が円安のデメリットに気が付いてしまったということであります。
第二の矢である機動的な財政政策、あるいは国土強靭化計画と称する政策についてはポリシーは正しいのですが、建設の実態を見る限り必ずしも成功しているとは言えません。理由は建設物価の高騰により多くの民間プロジェクトや事業が凍結、ないし中止となっており、あるべき健全な企業成長を促せなかった部分があるからです。
この矢の最大のネックは10数年間にわたる公共投資の減少と建設業の不振から建設従事者を十分に育成してこなかったツケが一気に出てしまい、ただでさえ震災復興で人手がないところに放たれた矢は市場の需要と供給を歪めたのであります。
例えばマンションもここにきて供給が減っていますが、理由はマンション業者が売れると思われる金額では建設費の高騰でもはや開発できない事態になっていることがあります。このポイントは建設業界の人材不足のネックが解消できず、経済の波及効果が出ていないことでしょう。健全な経済下に於いては建設業好況→人材増→受注増、利益増→他業種への波及効果となるのですが、建設会社は人材不足で受注金額は増大できるものの施工高を増やせず、利益につながらないのであります。
三本目の矢についてはもはやいうまでもなく構造的改革で漢方薬のようなものですから効果が期待できるのはまだまだ先であります。
こう見るとアベノミクスをまとめあげ全体の方向性をはっきり打ち出すまで時間がかかりすぎ、第一の矢の効果すら剥離しつつあるようになってしまっています。
今後、消費税10%への引き上げが現実のものになるか、という議論が出てきます。上げないわけにはいかない政治的理由と上げてはまずい経済的理由との綱引きが本来であれば検討されるはずですが、天変地異でもない限り、引き上げ延期とするはずがない状況を考えればそもそも2段構えで引き上げをすること自体がどうだったのか、という後悔も無きにしも非ずのような気がします(もっとも一気に消費税額が倍になるという強硬手段も議論が大いにありますが)。
実行力、行動力を示す上で安倍首相はアベノミクスと消費税引き上げを断行するでしょう。しかし、来年度以降の日本経済は軋む可能性があります。高額商品の売れ行きで日本経済を占うべきではなく20代、30代といった経済のメインストリームの層がどういう消費行動をしているか、そこをもっとつぶさに見るべきだと思います。少なくとも若い人がお金を余力をもって使っているとは感じられないのであります。
私は何か引っ掛かりを感じ始めています。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年10月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。