太陽光発電の買い取りを凍結せよ

池田 信夫

ニューズウィークにも書いたことだが、太陽光発電の固定価格買い取り制度(FIT)が破綻し、新規の買い取りが停止されている。これまでに設備認定された太陽光発電所がすべて稼働すると日本の電力需要をはるかに上回り、年間2.7兆円の超過負担が発生する。

この最大の原因は、42円/kWh(2012年度・住宅用)という非常識な買い取り価格の設定にある。その仕掛け人は、ご存じ孫正義氏である。彼は「2010年に太陽光は原発より安くなった」と主張する一方で、FITの買い取り価格は「EU平均で58円/kWhだ」として「40円以上の価格を保証しろ」と主張した。


58円というのはヨーロッパで太陽光バブルの崩壊する前の2009年の価格で、当時すでに20円台に下がり、全量買い取りは中止されていた。そもそも太陽光が原子力より安いのならFITで補助する必要がないのだが、菅首相が「私をやめさせたかったら再エネ特別措置法を通せ」と孫氏を支援したので、再エネ法が成立した。

この段階で、今のような事態は予想されていた。発電業者は、ゴールドマン・サックスが3000億円の設備投資を表明しているほか、GEや上海電力など、外資が多い。メガソーラーなら、太陽光パネルの単価は20円/kWh以下になる。それが32円(2014年度・非住宅用)で20年間リスクゼロで電力を売れるのだから、彼らが投資するのは合理的だ。

もう一つの問題は、書類審査による設備認定だけで買い取り価格が決まる制度の欠陥にある。2013年度末に駆け込みで3000万kW以上の設備認定が行われたのは、投資ファンドなどが大量の申請を出したためで、いまだに約7000万kWのうち6000万kWが、認定されたが稼働していない「ペーパー発電所」である。

ヨーロッパでは発電開始の時点で価格が決まるのが普通だが、反原発派や民主党が「電力会社に裁量権を与えるとサボタージュする」と主張し、その圧力に負けてエネ庁が書類審査だけでOKとした。このため太陽光パネルは値下がりが急速なので、買い取り価格の高いうちに枠を取ってパネルの値下がりを待つ業者や、空き枠を売買する業者も出てきた。

原子力の穴を埋めるには、本来なら安定供給できる地熱や水力を優先すべきだが、2年間に申請された再エネの96%が太陽光だ。地熱は26円、水力は24円/kWhで、設備に時間がかかるが、太陽光は用地買収してパネルを買うだけでOKだからである。どんな粗悪な電力でもよく、北海道の原野でもかまわない。送電設備は電力会社が整備するからだ。

このまま放置すると特別措置の終わる来年3月に、また大量の駆け込みが発生する。ここで新規の買い取りを凍結し、制度を見直すべきだ。特に書類だけ出して空き枠をおさえる業者を締め出すために、買い取り価格の決定は発電開始の時点に変更すべきだ。