私たちにまだ時間はあるだろうか --- 長谷川 良

アゴラ

地球温暖化の影響などを評価する国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は11月2日、コペンハーゲンで最新の統合報告書を公表した。「今世紀末までの気温上昇を2度未満に抑えるという国際目標の達成には、19世紀末以降の世界全体の二酸化炭素(CO2)の累積排出量を、約3兆トンに抑える必要があるとの見解を盛り込んだ。すでに約2兆トンを排出しており、現在のペースで排出が続けば、あと30年で限界を超えるという厳しい見通しを示した」(読売新聞電子版)という。


統合報告書をまとめた科学者たちは、「われわれは地球温暖化の実態を調査し、予測をまとめた。次は政府関係者の仕事だ。この報告書内容を深刻に受け止めて早急に対応に乗り出すことを願う」と述べている。

地球温暖化はもはや一部の科学者や国のデータ分析ではなく、われわれ一人ひとりが肌で感じ始めている問題だ。例えば、当方が住むオーストリアの気候はここ数年で大きく変わりつつある。ウィーンでは雪が降らなくなった。夏は日本のように蒸し暑いシーズンとなってきた。30年前、ウィーンに住みだした1980年代、夏は乾燥していて、ワイシャツを毎日変えなくて済んだが、このところ夏は蒸し暑く、ワイシャツは汚れ、毎日変えなければならほどになった。気候が確実に変わってきたのだ。

アルプスの小国オーストリアだけではない。世界各地で程度の差こそあれ気候の変化が目に見える状況で生じている。スイスのアルプス山脈のアレッチ氷河は溶け始め、地球温暖化がこのまま進めばアルプスの80%の氷河が溶けると予測されている。台風、暴風、ハリケーン、洪水は以前より頻繁に発生している、といった具合だ。

産業革命以降の「経済成長率」信仰を見直さなければならず、ワイルドな資本主義経済にブレークをかけなければならない時をとっくに迎えている。それは同時に、われわれの生き方を根本的に見直さなければならないことを意味する。

「赤信号、皆で渡れば怖くない」というジョークがある。地球温暖化問題は対策を行使しない限り、確実に訪れる。科学は進歩し、対策技術は開発されているが、地球の環境を大切にするのは科学ではなく、われわれ一人一人だ。そして環境問題で今、「赤信号」が灯されているのだ。パニックに陥る必要はないが、対策を講じなければ大変な事態になることだけは間違いない。

欧州各地でお金を使わず生活できる運動が進められている。彼らは必要ではない物品、食糧を交換し、相互にネットワークを結びあって生きていこうとしている。一種の草の根運動だ。食糧不足で多くの人が亡くなる一方、毎日多くの食糧が無駄に捨てられている。エネルギーの消費問題でも同じだ。

環境保護の啓蒙を進める一方、具体的な対策に関する情報交換が必要だ。政府は毎年、民間企業と連携をとって具体的な目標を掲げ、国連は地球レベルの環境保護を推進する本部となって世界の環境問題の現状をまとめ、それを報告していく……、これらの対策が功を奏するか分からない。われわれはまだ時間があると信じ、身近な環境下で最善を尽くす以外に道がない。

繰り返すが、われわれはパニックに陥る必要はないが、深刻にならなければならない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年11月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。