まさかとは思うが、消費税の増税を延期して解散という話が、自民党内でも検討され始めたようだ。政局はよくわからないが、今まで何度も書いた常識的な事実をおさらいしておこう。
1.景気悪化の最大の原因は消費増税ではない:1997年の4~6月期と比べて、今回のほうが消費の落ち込み幅が大きい。増税率はほとんど同じなので、これは論理的には増税以外の要因が大きいことを示している。図1でもわかるように、生産指数のピークは今年1月であり、4月に大きく落ち込んだわけではない。景気の悪化している最大の原因は、人手不足やエネルギー価格上昇などの供給制約である。
図1 鉱工業生産指数
2.増税の影響は一過性である:図2のように1997年の4~6月期には成長率がマイナスになったが、10~12月期にはプラスに回復した。98年に入ってGDPが急に落ちたのは、97年秋の拓銀・山一の破綻のあとの信用不安が原因だった。
図2 前回の増税のときのGDP成長率
3.増税で税収が減ることはありえない:「消費増税で税収が減った」という人がいるが、これはそれと前後して所得税・法人税率の引き下げが行なわれたためだ。特に1999年からは所得税の定率減税が毎年2.7兆円も行なわれ、図3のように全体の税率は低下した。もし所得税と法人税を減税しなければ、図の点線のように、その後の税収は2000年ごろには1997年を上回っていたはずだ。
図3 減税(所得税・法人税)の影響
4.成長だけで1000兆円の借金は減らせない:こういうとき、よくあるのが「増税を延期して名目成長率が上がったら税収も上がる」という話だが、プライマリーバランスを黒字にするには、小黒一正氏と小林慶一郎氏によれば、次のような条件が必要だ。
a. 実質成長率0%:インフレ率19.7%
b. 実質成長率1%:インフレ率13.8%
c. 実質成長率2%:インフレ率7.8%
d. 実質成長率3%:インフレ率1.8%
ここ20年の平均実質成長率は0.9%なので、bのケースが現実的だと思われるが、その場合は13.8%のインフレ率が必要だ。日銀の目標とする2%のインフレに近いdのケースでは、実質成長率が3%になる必要があるが、上にもみたように延期しても成長率は上がらない。実質成長率3%というのは、バブル最盛期の1980年代の数字である。