消費税関連法案上、解散総選挙をする説得力はない --- 岡本 裕明

アゴラ

解散選挙のニュースは日を追うごと、というより、時間を追うごとに新しい情報が送り出されてきますのでマスコミもその報道でかなり忙しいようです。私は一昨日のブログでこの解散選挙に意味があるのか、という趣旨のことを書かせていただきました。二日間経つと更に情報がアップデートされてきていますし、頭の中ももう少し整理できてきましたのでもう一度この話題を振らせていただきます。


昨日の株式市場がいかにこの選挙で右往左往しているか、その動きをみるとよくわかります。前引け前に菅官房長官が「選挙準備をやっていない」と発言して株価は失速します。その後、昼休みに安倍首相が「12月衆院選検討」とニュースが伝わり、後場寄りからは持ち直します。ところが、あの「火消係」の麻生財務相が「消費税増税の先延ばしが決まったわけではない」との発言を受けて日経平均は72円高と上げ幅縮小となっています。もう一つ注目しなくていけないのは株高だから株をやっている人はさぞかし儲かっているだろうと思われるのですが、昨日の場合では値上がり555銘柄、値下がり1190銘柄と値下がり銘柄が圧倒的に多くなっているのです。

このところ個人投資家は持ち株処分、ないし、利益確定が増えているのに対して外国人が買いを入れているという状況です。ですから個人好みの新興市場は今一つ盛り上がりに欠けているわけでメディアが今日も株が上がったと掻き立てるのをそのまま真に受けて信じているとまったく違ったピクチャーとなるのです。

さて、解散選挙に関して主要紙の社説をみてみましょう。

読売は「安倍首相が衆院解散・総選挙を検討している。国民の信任を改めて得ることで、重要政策を遂行するための推進力を手に入れようとする狙いは、十分に理解できる。」とあり解散選挙をプラスに捉えています。

朝日は「まさに党利党略。国民に負担増を求めることになっても、社会保障を将来にわたって持続可能にする――。こうした政策目標よりも、政権の座を持続可能にすることの方が大切だと言わんばかりではないか。安倍首相の本心はまだ不明である。だが、民主主義はゲームではない。こんな解散に大義があるとは思えない。」と解散選挙に対してかなり辛口であります。

日経は「首相が来年10月に予定される消費税率の8%から10%への引き上げを延期し、その是非を問う。政権内にはこうした構想がある。自公両党と民主党による3党合意を変更するうえで国民の信を問うのは一つのやり方だ。ただ、耳によい話だけ聞かされても困る。その場合、日本の財政や社会保障はどうなっていくのか。そこに向けてアベノミクスはどんな手を打つのか。消費税率は今後、どう上げていくのか。しっかりした将来像を提示しなければならない。」とあります。

私のトーンに一番近いのは日経でしょうか?

漏れ聞こえてきた7-9月のGDP速報値。プラス2%程度というその噂が本当であれば4-6月が7.1%のマイナスであることからすれば明らかに力不足の数字であります。これでは消費税を正々堂々と上げるという大義名分は厳しいと言わざるを得ません。このあたりに安倍首相が弱気になっている真相がありそうな気がします。

ただ、日経にあるように景気回復が思わしくないから消費税を引き上げないとするならばその穴はどう埋めるか、そこは明示されていません。2020年までにプライマリーバランスをゼロとするという大目標がありそこに向かうための消費税であったわけです。ここで仮に1年半延期すればこの大目標はやはり初めから絵に描いた餅だったのか、ということになります。

麻生副総理が「消費税の先延ばしが決まったわけではない」と言いたい気持ちは財務省のトップとしてよくわかります。ドライバーの安倍首相が1年半、休息するとすれば2020年の目標も2021年秋まで先延ばしするのかということも決めねばなりません。

何のための解散か、と言われればやっぱり意味を見出すのは難しい気がします。一昨日も書きましたように選挙をやっても表面上は何も変わらないはずです。国民の信を問う、と言っても消費税関連法案の「景気条項」は
「…経済状況等を総合的に勘案したうえで、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」とあり、言ってみればどうにでもなる文章であります。何ら数字的縛りがあるわけでもないし、それ以前にこの12月に判断するという決まりもないのです。来年10月までに決めたってよいのです。

つまり、今回、仮に解散選挙になれば日本の歴史の中でも珍しいぐらいあまり「お題」がはっきりしないものになる気がします。どうせ解散選挙するならアベノミクスの全体プランをしっかり作り上げた内容とし、これで2020年まで突っ走るという信を問うものであってもらいたいものです。朝日の社説にもあるように党利党略が主導し、支持政党なしと答える4割の国民の真意を問わないのはどうなのかと思います。

ちなみに私は投票しません。なぜならこれは自民党と安倍内閣の信任解散であって与党か野党かの話ではないからであります。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年11月13日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。