ダイハツ、スズキ、ホンダ。共通した悩みは国内販売の低迷であります。本年4月から9月の販売台数を見ると前年同期比でスズキが108%、後発組の日産も堅調に見えますが、ダイハツ他主要メーカーの販売台数は1割前後低迷しています。10月だけを見ると軽の主要メーカーで一番まともなスズキでも前年同月比84%で他社は軒並み50~60%水準で三菱は半分まで落ち込んでいます。
安倍首相が解散を決めた消費の落ち込みの典型的な例でありますが、自動車メーカーについては頭が痛い日が続くのでしょうか?
軽自動車の販売台数は2010年の160万台強から2013年には220万台強で統計的には2014年も同様の数字にはなりそうです。但し、年前半の頑張りに対して後半に落ち込んでおり、在庫が積みあがるメーカー各社としては15年3月の軽自動車税導入も控え、戦々恐々となっています。
軽自動車といえば地方の人の足として重要な意味を担っています。普段は軽自動車、お客さんが乗るときやちょっと人に会うときには普通自動車に乗るという農家も多いのではないでしょうか? 最近では軽自動車は広々とした車内空間や走りに重きを置いたものなどマーケティングも多彩でファン層も確かに増えてきています。私もレンタカーを多用しますが、軽自動車でも全く問題ありません。事実、追い越しでもビュンとはいきませんがうなりながらもきちんと所定の目的は達することができます。
しかし、軽自動車の主たるマーケットである地方では経済的重しがより大きく、人口減が顕著であり、且つ、高齢者が多いのは歴然たる事実です。長期的な販売傾向として買い替えを含め、今の軽自動車販売台数が維持できるとは考えられません。つまり、2010年のボトムはリーマンショックによる落ち込みの底入れでその反動から現在まで販売台数が増えてきているもののこれ以上、統計的にぐいぐい伸びる理由は見出しにくく2015年以降調整期に入ってもおかしくありません。
毎月統計で発表される自動車売上げ台数でトップ10の半分以上を占めていたその軽自動車マーケットに今後異変が起きれば日本の自動車生産には大きな試練となってしまいます。
ところで東京にいて思うことの一つに「住宅街の車庫に止まっている自動車は動かない」という事実であります。東京の戸建には車庫持ちの家も多いのですが、どのような時間帯でもその車はまるで置物のごとく鎮座しています。面白いことにベンツがある家のそばにはあちらこちらの家にベンツが並んでいます。そのエンブレムがまるで家紋の様に見えるのは上の世代の「お隣意識」であることが見て取れそうです。
「お隣意識」とは高度成長期の日本人の「比較好き」と「見栄」を反映した社会学的な行動であります。奥さんが「お父さん、お隣の息子さん、○○高校に受かったのですって」「向かいの家、車、買い換えたわよ」「裏の家、家の改修をするんですって」といったどこに家にもありそうな会話の裏には「だからうちもそうしましょうよ」であります。つまり、高度成長期には主婦が消費を引っ張っていたとも言え、それゆえに今でもバブル時代の消費癖が抜けない話は林真理子の小説ネタになり続けるわけです。
ところが少し前の日経の記事にもあったのですが、ある若者が彼女とのデートにベンツを借りてきたら「軽でいいのに」と言われて彼氏が愕然としたというのは今の若者意識を象徴しています。今のシングルの女性の財布はかなり締まっています。価値の有無を徹底的に検証し、消費する理由が存在しなければお金を使いません。この例の場合、移動手段はベンツでも軽でも結果は同じでしょ、という事です。
これは逆説的ですが、売れるからという理由で軽自動車に傾注しすぎた日本の自動車メーカーの誘導ミスもあるかもしれません。トヨタと富士重工が共同で若者向けスポーツカーを作りました。あれは日本よりカナダの方がよく見かける気がしますが、このような若者の意識を変える努力はしなくてはいけないでしょう。それからドライブして楽しいと思わせるためには駐車場の整備や渋滞の緩和などインフラの更なる改善を行わなくてはいけません。日曜日のデパートの駐車場が1時間待ちとなれば電車で行った方がまし、と思われるのは当たり前です。
日本の自動車の性能が良いのは言うまでもありません。しかし、その性能を十分、発揮できていないのも事実ではないでしょうか? 水素自動車の加速時のうなり音がいいのは確かですが、その前に「車で行きましょうよ」と女性に言わせる雰囲気づくりも大切だと思います。さもなければ軽自動車を13年間、乗り続ける人がもっと増えてくる気がします(13年目以降は重加算税がかかります)。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年11月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。