■エボラ治療の遅れは製薬企業の利益優先姿勢が大きな原因、WHO事務局長
エボラがアフリカのスーダンやコンゴで見つかってから、すでに40年が経過している。
その間、ワクチンや抗エボラウイルス薬の開発は進まなかった。そして今春3月以来、エボラは西アフリカで拡大し、欧米にも感染者が飛び火しはじめた。
そうした中、製薬企業は、最近になって慌てたように治療薬の開発やワクチンの開発に着手した。
これまで市場として儲けにならないアフリカ限定の感染症に世界の製薬企業は関心を抱いてこなかった。しかし、世界に拡大する可能性があるとなると話が違う。市場が拡大し利潤につながるというわけだ。
11月4日、WHOのチャン事務局長は、「利益優先型の製薬企業がアフリカのエボラに関心を抱かなかったことが、未だ治療薬もワクチンもない理由である」と製薬企業の姿勢を糾弾する発言をした。
ワクチンは来年夏にはグラクソ社などから数十万人分製造されるという。本腰を入れてわずか1年足らずである。
でもそれは誰を救うためのワクチンだろうか? 支援に向かう海外からの医療担当者や軍隊のために用意されるのだろう。
すでにアフリカでは、この9ヶ月間に少なくとも1万人以上の感染者が出ており、その半数近くが死亡している。米国CDCは、このままでは来年夏には数万人の死者が出るかもしれないと予測している。
途上国を踏み台にして科学を先取りした先進国は、その科学がもたらす恩恵を途上国に分け与えてこなかった。
国連が非力になり、WHOも予算不足の状況で、アフリカのエボラ流行を心から心配してサポートする国は少なかった。
そうした中、11月5日、米国のオバマ大統領が議会にエボラ対策の予算として6,000億円を要求し、そのうち2,000億円を西アフリカを中心とした対策費に向けていることが報じられた。エボラが現在および今後の地球上でいかに脅威的であるかが、米国の指導層によって認識された証でもある。
続いて7日、日本政府も約100億円の緊急支援を行うことを発表した。
国境なき医師団が西アフリカでのエボラは制御不能であると世界に訴えた8月から、既に3ヶ月が経過してからの反応であった。
※参照情報: 『インデペンデント』誌(英国)11月4日付 記事
■エボラ戦争の先頭に立つキューバの医学国際主義
本年3月より流行が拡大している西アフリカのエボラ。国境なき医師団や国連が8月に世界各国へ支援を求めた。
その後、キューバが率先して多くの医療スタッフをエボラとの戦いに西アフリカへ派遣している。
その秀でた能力と行動力は注目されるが、なぜキューバが国際的医療災害へ多くの医療スタッフを派遣するのかについて色々な見方がされている。
WHOはキューバの行動を称えている。
「キューバは優秀な医師やナースの訓練で世界的にも有名な国家である。」WHOのチャン事務局長は9月の記者会見でそのように語っている。
その会議でキューバの保健大臣は、全ての国にエボラ撲滅を呼びかけた。
キューバは裕福な国家ではないにも関わらず、エボラ流行地域に多くの医療スタッフを派遣している。
同国は西アフリカへ460人の医師とナースの提供を申し出ており、現在165人がWHOと協同しながら実際に現地での医療支援を行っている。
なお同国は5万人以上の医療担当者を世界66カ国の途上国に派遣している。
しかし、なぜキューバはエボラ対策に即反応できているのだろう?
キューバの医学教育は、“キューバ流医学国際主義”(Cuban Medical Internationalism)に基づいている。
キューバの世界的健康危機対策教育は、国境なき医師団の教育システムを取り入れている。
キューバの医学生は卒業すると、医療伝導(medicalmissions)のボランティアとなる機会を選ぶことが出来る。エボラ流行や各種の自然災害が対象となる。
エボラのような対象に立ち向かう訓練にあたっては、厳しい医学的トレーニングだけでなく、地域の文化や歴史をも学ぶ。
一方、キューバの医療スタッフの海外への派遣を利他的行為ではなく、一種の商品化された政治的行為との見方もあるようだ。
多くの国が自国民をエボラ流行地に派遣するのを躊躇っている中、キューバは率先して医療スタッフを大勢派遣することで、それを政争の具としているとのコメントもある。
純粋の好意からか、それとも米国と敵対して、未だ国際的に特異な立場にあるキューバの政策の一つとみるか、色々な意見がある。
米国CDCのスタッフがキューバにエボラ会議のために出かけたことを、米国共和党は強く非難した。公衆衛生学的問題に政治が介入してくることは、決して許されないことであるが、公衆衛生学的水準を高めるためには政治のサポートが必要であることも事実であるから、事態は複雑である。
カストロは最近、国営新聞で以下のように述べている。
「米国のスタッフと協力してエボラに立ち向かうことは望ましいことと思う。しかし、その目的は米国との和平を探ることではなく、あくまでも世界平和につながるいかなる出来事に対しても、我々が為し得る、そして為すべき目的の一つとしてである。」
※参照情報: 『タイム』誌(米国)11月6日付 記事
外岡 立人
医学ジャーナリスト、医学博士
編集部より:この記事は「先見創意の会」2013年11月18日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。