円安と「おもてなし」がふやす訪日観光客 --- 井本 省吾

アゴラ

消費増税や円安による物価高で個人消費の低迷が続いているが、一方で好調なのが外国人観光客の増加だ。

1~10月の訪日観光客数は1100万人で、前年同期比27%増。うち中国人は200万人で前年比80%増という伸びだ。韓国は7%増だが、人数は224万人で外国人観光客の中で最大。10月に限れば、韓国人は25万人で同58%も増えている。


大きな原因は円安にある。輸入品価格上昇による日本人の購買力下落→消費低迷をもたらした円安が、裏腹な格好で外国人観光市場の拡大を促しているわけだ。

だが、それだけではない。1ドル=120円弱という円相場は2006~2007年とほぼ同水準だが、その当時に比べ中国人の賃金は2倍強に上昇した。その分、中国からの輸入品価格を押し上げたが、同時に所得の増えた中国人をふやし、日本のビザ発給の緩和とあいまって日本観光を拡大させている。中国人に限らない。台湾、タイ、シンガポールなどアジア全体に当てはまる。

もう1つ訪日客数をふやしている見逃せない要因がある。日本の自然の魅力や歴史的遺産、日本料理の味、そして「おもてなし」のきめ細かいサービスが彼らをひきつけている。サービス業の低生産性が指摘されているが、「おもてなし」に象徴されるサービス品質は日本産業の大きなパワーである。

10月の訪日客は37%増の127万人で、今の調子なら2014年は1300万人に達しそうだ。これは20年前の1994年(324万人)の3.7倍、10年前の2004年(614万人)の2.1倍である。来年以降も増える見通しで、東京オリンピック開催年の2020年に2000万人という政府目標は、2020年前にも達成しそうな情勢だ。

円安とアジア人の賃金上昇は日本経済に輸入価格上昇というマイナスばかりをもたらすわけではないということだ。

でも、円安が輸出を増やすと思ったら、輸出は全然増えないという反論がある。製造業の海外移転で国内空洞化が進み、少子高齢化とあいまって構造的に輸出を抑えているのだ。だから今後も巨額の貿易赤字が続くという見方が強まっている。

だが、本当にそうだろうか。円が130円、140円とさらに安くなるようであれば、製造業の国内回帰が強まるだろうし、ハイテク電子部品や新素材、特殊な製造装置、測定装置など日本独自の商品の開発、輸出に磨きがかかると思われる。

楽観は禁物だが、あまり悲観するのもどうか。日本人のやる気と勤勉性を信じたい。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2014年11月25日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。