ウィーンで11月27日、石油輸出国機構(OPEC)第166回総会が開催されたので総会後の記者会見に久しぶりに顔を出した。事務局がドナウ河沿いにあった時代は結構まめに記者会見をフォローしたが、事務局がウィーン市1区に移転して以来、ご無沙汰することが多くなった。それなりの理由はある。OPEC取材は基本的には原油問題専門記者がフォローするテーマであり、原油市場に疎い当方が食い込む余地などないからだ。
▲OPEC総会後の記者会見風景(2014年11月27日、ウィーンOPEC事務局で撮影)
記者会見でも原油関係会社のロビイストと思われる記者が主軸になって質疑する。彼らはOPEC事務局長が生産枠や今後の見通しについて答えると即、依頼主、本社に電話する。原油価格は関係国、関係閣僚の発言一つで上下するからだ。OPECは文字通り、「時は金なり」の世界だ。
▲バドリ事務局長(中央)
OPEC加盟国(12カ国)はサウジアラビア、イラク、イランなど中東諸国が中核だから、地域紛争が原油価格に反映する。少々血なまぐさい世界だ。中東で紛争が発生すると原油生産量の減少を見越して価格が上昇する。需要と供給の原理が支配する。ところが、今年6月からOPEC価格は急落してきた。26日現在1バレル73・70ドルと約4年ぶりの安値水準だ。100ドルを超えていた時と比較すれば、3割減だ。
シリア、イラクでは内戦が続き、リビアは混乱し、イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」が席巻している。中東全土に火がついている状況だ。にもかかわらず、原油価格は低下している。従来の需要と供給の原則とは少々一致しない価格の動きだ。だから、現行の原油価格は米国とサウジアラビアが意図的に操作しているのではないか、といった憶測情報が流れるわけだ。
シェルオイル・ブームの米国は生産量を拡大し、ウクライナ紛争で侵略的作戦を展開させたロシアに対し、原油価格の急落で反撃しているというのだ。ロシアはその外貨収入の半分近くを原油輸出で賄っているから、原油価格が下がれば、国庫収入が減るため痛手だ。
一方、世界最大の原油輸出国サウジは原油価格が低下しても減産を拒否している。原油価格の下落を甘受しているのだ。その背景について、サウジは一時的に収入が減ったとしてもシーア派の盟主・宿敵イランにダメージを与えるほうが得策と考えているからだという。ちなみに、ウィーンで開催されたイラン核協議で米国がイランと合意することを恐れていたのはイスラエルとサウジ両国だったといわれた。
27日の総会では、イランやベネズエラが価格低下を防ぐために現生産枠(日量約3000万バレル)の減産を要求したが、サウジやクウェートらが押し切って、現生産枠の維持で決着した。
参考までに、OPEC総会取材をしていると、スーダンの国連記者の言葉を思い出す。「わが国で原油が発見されて以来、南北スーダン間で利権争いが激化した。イスラム教とキリスト教の宗派間の戦いではなく、実際はオイルの争いだった。わが国で原油がなかった時代のほうが国民はひょっとしたら幸せだったかもしれない」と語っていたのを覚えている。オイル資源が国民の福祉と幸福の向上につながっていない国が少なくないのは悲しい現実だろう。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年11月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。