一票格差をめぐる最高裁判決で出た画期的な反対意見 --- 高田 皓司

アゴラ

2013年参議院選挙における一票較差をめぐる2014年11月26日の最高裁判決で、山本庸幸裁判官が画期的な反対意見を表明した。
判決全文、うち問題の反対意見はp54最終行以降)

『投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定する唯一絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである』との多数意見の主張を山本裁判官は真っ向から否定し、『しかし国民主権と代表民主制の本来の姿からすれば投票価値の平等は他に優先する唯一かつ絶対的な基準として、あらゆる国政選挙において真っ先に守られなければならないものと考える』と断言した。


他の政策的目的等は、投票価値の平等という根幹の原理、必須の要請が満たされた上で考慮すべき二義的なものであると切って捨てたのである。

そして投票価値の較差が、技術的などの理由によるやむを得ない範囲(彼は衆議院であろうと参議院であろうとせいぜい2割程度とする)を超えて存在する選挙制度は即違憲であり(彼は違憲状態と違憲などという区別には言及しない)、違憲な制度に基づいた選挙は即無効である(彼はこの問題に違憲有効という事情判決の法理を適用することを否定する)と明快に結論する。

実に正論であると言わざるを得ない。

では選挙を無効にした場合事態をどう収拾するか(論者すべてが強調するようにこの点に関しては明確なルールは何もない。しかし明確なルールがないからと言ってそこを回避していてはいつまでたっても事態は先へ進まない。国会が自ら無効判決を出してくださいと言わんばかりの制度整備をする筈がないではないか)。

山本裁判官は、『裁判所としては違憲であることを明確に判断した以上はこれを無効とすべきであり、そうした場合に生じ得る問題については経過的にいかに取り扱うかを同時に決定する権限を有するものと考える』とした上で、選挙全体を無効とするのではなく、違憲な投票価値の不平等をもたらしている問題選挙区(過大定員選挙区、すなわち過少選挙人選挙区。彼は一票の価値が全国平均の0.8を下回る選挙区としている)だけを無効とする(問題選挙区から選出された議員だけがその身分を失う)ことを提案している。

確かに選挙制度改革を推進するに際して、現行制度からの特権的受益者が抵抗勢力となることは当然であるから(これまでの国会における抜本的選挙制度改革論議の経過がこれを証明している)、これを決定権者から排除するのが一番の早道であることは容易に納得できることができる。

この方法は即効性という点からも将来効という解決方法より優れていると思われる。

以上山本裁判官の反対意見は絶賛に値するものであると考える。

ただ補足するとすれば、この反対意見では投票価値の平等を論じる際その量的側面(すなわちいわゆる一票較差)だけを問題にしており、質的側面に全く触れていないことである。

例えば参院選の場合は一人区と複数人区の併存の問題がある。

たとえ選挙区の境界を調整して一票較差を無くしたとしても、一人区と5人区では投票価値の質的不平等は明らかであろう。

更に選挙区制には候補者選択の自由の制限という根本的問題がある。

自分の選挙区には意中の人物はおろか政党さえもが立候補していないのでは選択のしようがない。

今回の裁判は一票格差をめぐるものであるから投票価値の平等の量的側面だけしか論じられていないが、この問題が一段落すれば次は質的側面が問題とされるようになってくると思われる。

最終的ゴールは選挙区の全廃、全国一区に帰着せざるを得ないであろう。

高田 皓司
78才 無職