昨日のブログ「徳政令という選択」は消費増税について議論していなかった。そこで、補足しておくと、金融資産を半減させる借金棒引きは、今の給与を減らすものではないので、意外と反発は強まらない。
しかし、もし消費税を上げると、とたんと増税分だけ分可処分所得が減って生活費を切り詰めなければならなくなる。5%から8%に上げただけでも個人消費が冷え込んだのも見ればわかる。10%に上げたら、さらに生活は厳しくなる。
消費税は少し上げただけでも毎日重石のように肩にのしかかり、ボディブローのようにハラに響いてくる。そういう税金なのだ。
で、不満が高まり、政権への批判が強まり、支持率が大きく下がるだろうと判断して安倍政権は10%への増税を1年半、延期した。しかし、2017年4月になって、10%に上げても大丈夫なほど国民の賃金は上昇しているだろうか。
しかも、消費税を10%にしたぐらいでは財政悪化を止めることはできない。すでに様々な経済機関やエコノミストが試算しているように、長期的に20~25%、場合によっては35%くらいまで引き上げねば、日本の財政悪化を解消できない。それも歳出抑制を前提にしてである。
でも、徳政令という劇薬の投入はきわめて困難。長期間かけて少しずつ消費税を上げて、だましだまし国の借金の膨張を押さえ、財政規律を何とか保って行こうというのが、財務省の戦略なのだろう。
だが、それがうまく行くだろうか。どこかでハイパーインフレに襲われないだろうか。その不安が徳政令の選択を呼ぶのである。
徳政令は少数派である金持ちの資産を大幅に減らすが、圧倒的に多い普通の庶民の負担は相対的に少ない。その分、政治的な困難は、思うほど大きくないのである。
追記1:昨日の議論で個人金融資産を半減すると450兆円の国の借金が減るとしたが、1000万円までの預金は棒引きにしないとしたり、3000万円までは30%棒引きに緩和するとした条件を入れると、棒引き額は300兆円ぐらいにしかならないかも知れない。だが、それでも財政は相当に改善される。
追記2:消費税そのものは所得税よりも国民の支持が高いかも知れない(少なくとも私は支持する)。その理由は消費税は買い物しないという選択ができるからである。消費しなければ税金は増えないのだ。選択の自由がある。これに対して所得税は強制的に取られる。自分で稼いだものから奪われるのである。
だから、間接税である消費税を増やす代わりに、直接税である所得税を減らして、直感比率を是正することには賛成である。それも増減税同額ということにすれば、可処分所得が減らないので消費は維持される。所得税が減って、自分の自由意志で金を支出できる金額がふえる分、気分が良くなって、消費は拡大する可能性も高い。
追記3:増税もせず、徳政令もなしで、ハイパーインフレを回避するには、大幅な歳出削減が必要だ。それは「大きな政府」から「小さな政府」への画期的な転換を意味する。
役所の権限と人員を大幅に減らし、国民は自助努力で生活する範囲を拡大する。老後の不安は極力国民年金に頼らず、自分で貯蓄する。地方は中央政府の交付金に依存せず、自前の工夫でやっていく。つまり地方への権限委譲と自立である。
自助、自立の精神が広がることが最大の財政再建策である(以上の多くは昨日のブログ同様、日下公人著「日本と世界はこうなる」の第4章「財政再建はいくらでも方法がある」に拠っている)。
編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2014年12月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。