選挙後に待ち受ける新安倍政権3つの宿題

小黒 一正

第47回衆院選が終わった。各種のマスコミ情報によると、自民・公明は衆院定数475の3分の2に当たる317議席(法案の再可決や憲法改正の発議に必要)超を維持した。早々、新安倍政権がスタートするが、3つの宿題に取り組む必要がある。

第1は、2%物価目標の扱いだ昨年のコラムでも説明したように、過去のインフレ率(コアCPI)の推移をみると、1989年は消費増税分が1.4%押し上げているものの、バブル期(1986-1989年)でも、その年平均インフレ率は1%程度に過ぎない

しかし、2%のインフレ目標を達成するため、現在の日銀は異次元緩和を実施している。この異次元緩和を実施する前、2013年3月5日の国会で、日銀の岩田副総裁は就任前の所信聴取で、就任から2年後のインフレ率が目標の2%に達しない場合の責任に取り方につき、次のように語った。


○岩田参考人 それは当然、就任して最初からの二年でございますが、それを達成できないというのは、やはり責任が自分たちにあるというふうに思いますので、その責任のとり方、一番どれがいいのかはちょっとわかりませんけれども、やはり、最高の責任のとり方は、辞職するということだというふうに認識はしております。


だが、総務省が2014年11月下旬に発表した10月のインフレ率(コアCPI)は、4月の消費増税の影響(約2%)を除くと、原油価格の急落もあり、前年同月比で約0.9%でしかない状況だ。

目標達成の期限(2015年3月)は残り数か月しかなく、本当に辞職する必要があるか否かは別としても、いまの異次元緩和が国債の価格形成メカニズムを歪め、財政規律を緩めていることは確かだ。

また、日経ビジネスオンラインで説明したように、異次元緩和の限界も明らかになりつつあり、2年目の節目で、手法や問題の見直しを行う必要がある。

第2は、財政再建の道筋だ。増税の1年半延期が今回の選挙の争点であったが、政府は財政再建の観点から、2015年度に国と地方を合わせた基礎的財政収支(PB)の赤字幅を半減、2020年度までにPBの黒字化目標を掲げている。

このため、安倍首相は、選挙中の党首討論会等で、「歳出もしっかり見直しながら、2017年4月の消費増税を前提に2020年度のPBの黒字化を目指す」旨の発言をしている。この発言は重い。

なぜなら、12月に緊急出版した拙著『財政危機の深層 増税・年金・赤字国債を問う』(NHK出版新書)の136ページでも説明しているが、抜本的な財政再建を先送りする場合、政府債務(対GDP)を発散させないために消費税率を100%に引き上げざるをえなくなる限界は、2030年頃である可能性があるためだ。

そもそも消費税率を100%にすることは現実的には不可能であると思われ、この限界年は、その後、どんなに財政再建の努力を行っても財政破綻を防ぐことはできない限界の期限を示しており、増税延期は徹底した歳出削減を意味する。

第3は、社会保障改革だ以前のコラム「社会保障費の伸びは1兆円ではない」 でも説明したように、いま約110兆円の社会保障給付費(年金・医療・介護)は毎年平均2.6兆円程度のスピードで膨張している。

これは消費税率1%分の税収に相当する。また、増税が遅れれば財政的に同じ効果をもつ税率引き上げ幅は2%より大きくなるという視点も重要であり、その分、社会保障改革に切り込む必要がある。

なお、今年7月に内閣府が公表した「中長期の経済財政に関する試算」は、消費税率が2015年10月に10%に引き上がり、14年度の実質GDP成長率が1.2%であることを前提にしているが、増税は延期され14年度の成長率はマイナスとなる可能性が高い中、これらの前提はすでに崩壊している。

例えば、日経センターが12月5日に発表したESPフォーキャストによると、2014年度の実質成長率は0.5%減であり、2年以内にインフレ率2%という目標の実現は絶望的という結果であった。

また、50年後の日本経済を展望する、政府の「選択する未来」委員会の最終報告書(2014年年11月公表)は、人口減を放置し、生産性も低迷した場合、2040年以降、年平均でマイナス0.1%程度の低成長に陥るとの試算を明らかにしている。

インフレ率・成長率や税収の伸び等を操作するといった何らかの「粉飾」で誤魔化すかもしれないが、2015年度や20年度の基礎的財政収支の目標と予測の乖離を含め、財政やマクロ経済の将来像がどのような姿になっているか、2015年1月に公表が見込まれる「中長期試算」の改訂版で確認できる。

それらが、2%インフレの扱いや財政・社会保障改革という3つの宿題に対する新安倍政権の「本気度」や「本性」を明らかにするはずだ。

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)