ドイツの先進事例から考える「日本が取り組むべき若者政策」

高橋 亮平

代表理事を務めるNPO法人Rightsで、今年、若者政策や政治教育分野における先進国ドイツへの視察調査を行った。
視察対象は、連邦政治教育センター(官庁)、国際ユースワークセンター(準官庁)、新しい若者政策のための協議会(官民団体)、生徒会支援団体(民間)、連邦若者協議会(連邦レベルの若者利益団体)、政党青年部(政党)、ベルリン・パンコウ区(自治体)、ブレンドドビー総合学校(中学校•高校)、ベルリン州若者協議会(地域レベルの若者利益団体)
Youth Policy.org(国際NGO)、ブランデンブルグ州議会選挙の若者向けイベントと、短期間でありながら、多様な調査を行うことができた。

日本国内でも「18歳選挙権」が現実味を帯びてきたが、ドイツではすでに18歳選挙権を実現しているほか、州レベルでは、すでに16歳選挙権が実現しているところもあり、2009年にブレーメン州(2011年5月実施)、2011年にブランデンブルグ州(2014年9月実施)、2013年:ハンブルグ州(2015年実施予定)と拡大している。
今回の視察では、ちょうど選挙の直前というタイミングで、ブランデンブルグ州の若者向け選挙キャンペーンなども視察することができた。
ブランデンブルグ州では2014年を「参画の年」と位置づけ、若者のプロジェクトを積極的に支援しており、結果、若者による参加プロジェクト数は33件を超え、高校学校内での啓発活動や、投票マッチングサービスの活用なども大きく増加した。
こうした中、我々は「選挙の目覚め(WAHLWECKER)」と題した地域の生徒会などで活躍する若者自らが行政と組んで、若者に対する選挙キャンペーンを視察した。

その様子については、是非、動画を見ていただきたいと思うが、 会場には、各政党の青年部がブースを出し、政策と有権者を結ぶボートマッチのブース、また各政党の政策比較のポスターや選挙権ペーンのグッズなどが配られ、各ブースでは10代の有権者たちが、各政党の政策を聞き、意見交換、議論を行っていた。


代表を務めるチュク・ニュエンさんは18歳。高校で生徒会長を務めたほか、地区の生徒会の連合組織でも活動している。
ブランデンブルグ州では、若者と政治をつなぐイベントを積極的に行っているほか、政治教育科目の必修化なども行っている。この日のイベントも単に若者だけのイベントというわけではなく、州の教育・青少年・スポーツ省の事務次官も参加。行政としてもこうしたイベントを積極的にサポートしていた。こうしたイベントは、自治体や民間の財団などが金銭的な支援も行う。
18歳の若者が「今日、政治の場で決められたことは、私たちの未来に影響する。私たちはこれから、この国で一番長く生きるのだから、早い時期から政治に参加すべきだと思います」と話していたことも印象的だった。
もちろんドイツにおいてもこうした積極的に政治や社会に参画する若者ばかりではないだろう。しかし、一方で、こうした取り組みをしながら、若者を政治や社会に巻き込む仕組みを作っていく必要を強く感じた。

今回、ドイツ視察を行い、今後の日本における若者政策において、特に参考になると感じたものを、先日NPO法人Rights副代表理事の小串聡彦が発表したものを参考にいくつか紹介していきたいと思う。

まず紹介したいのが、若者参画や若者の声を反映する仕組みだ。
連邦若者協議会(Natioanl Youth Council)だ。
ドイツの連邦(国)レベルの若者団体の最大の傘組織で、若者団体のネットワーク化を担うと同時に、国の政策に対して若者の声を反映させる仕組みにもなっている。
Rightsでは、2010年にスウェーデン、2012年に英国にも同様に視察調査を行った。その際にもスウェーデンの若者の利益代表組織である若者協議会(LSU)を紹介したが、英国にも同様に、若者国会(Youth-Parliament)や、若者議会(Youth- Council)といった仕組みがある。
今回の総選挙でも、日本ではほとんど若者の声が吸い上げられる、ましてや政策形成過程で若者の声が反映されるということは、全くない。
ようやく「18歳選挙権」については、国会内に高校生や大学生などが100人以上集まり各党国会議員とのシンポジウムを開催したりといった動きが出てきた。今後は、国内においても、こうしたEU先進国の仕組みを参考にしながら、若者からの声を政策形成過程に反映する仕組みを創っていく必要がある。こうした中で、まず、来年から各政党の政策形成の中で若者の政策要求を聞きながら政策形成を行う仕組みを実践していきたいと準備している。

こうした若者参画の仕組みは、ドイツでは、幼少の頃から様々な形で取り組まれている。
今回の視察では、こうした実践の現場として、ベルリン・パンコウ地区(自治体)を訪れた。
パンコウ地区は、人口37万人のベルリンで最も先進的に子ども•若者の参画進めている行政地区で、小さいころから身近なことを決めることに関わり、年齢応じて少しずつ政治的な話題を増やしていく取り組みを行っていた。
子ども参画をめざす「子どもフォーラム」の開催や、若者がやりたいことを募り、企画書を申請して、予算を話し合い、若者で審査を行うという「ユースジュリー(若者審査員)」という取り組みがある。12歳~21歳の若者が3人からのチームをつくり、学校の中でのスキムボートの設置、学校の壁のペイント、トイレやキッチンの改修などの提案を実現する。
また、日本でも先日の総選挙の際に模擬選挙が実施されたが、ドイツでも「U18」という模擬選挙を行っている。
訪問したパンコウ地区では、こうした模擬選挙を単に投票だけでなく、今回はEU議会選挙の模擬選挙だったため、EUを学ぶための教材や資料を子ども・若者自身が作る取り組みや、子ども・若者が仮想の政党を作って議論するといった取り組みも行い、模擬投票後にはオンライン選挙特番を放送し、選挙結果の発表まで行ったという。
この他にも、ドイツでは、公園や都市開発などまちづくりに子どもや若者を参画させる取り組みも行われている。
訪問した低学年向けのユースセンターでも、近くにあった墓地を公園にするにあたって、どういう公園にしたいかなど、フィールドワークを行った上に、子どもたちが自ら様々なアイデアを出して実施されたとの事だった。
ドイツでは、こうしたまちづくりに子ども若者を参画させる事が一般的に行われている。
日本では、子ども若者どころか地域住民の声を反映しながらまちづくりを行う事例すら少ないのが現状だが、「地方自治は民主主義の学校」とも言われる。
私自身も自治体で部長職を務めていた際に、総合計画の作成や推進に、市民を巻き込んだワールドカフェなどを行い、その際に小・中学生などにも加わってもらう取り組みや、自治体コンサルタントとして、内閣府の補助事業で学校跡地活用に高校生たちの意見を反映させる取り組みなども行ってきた。
若者の政治参加の推進を考えれば、こうした幼少から各年齢に合わせた形での参画の仕組みづくりと共に、地方自治現場への参画の仕組みづくりは、大きな可能性を感じる。

2つ目の柱が政治教育についてだ。
ドイツではこの政治教育の中心的な仕組みの一つとして政治教育センターがある。
政治教育センターには、国レベルの連邦政治教育センターと、州への分権化が行われており、州ごとにも政治教育センターが存在する。
連邦政治教育センターは、民主主義の基盤強化、政治に関する生きた知識涵養、市民参画の促進などを目的とした内務省に付随する官営組織である。
こうした連邦政治教育センターと州政治教育センターの存在は、ドイツの政治教育の大きな特徴であり、スウェーデンや英国では、教育政策は教育省、若者政策は青年(事業)庁の管轄で、政治教育のみを扱う組織はない。
この政治教育センターでは、オンラインでのニュース教材の作成と提供、定期雑誌の発行や授業用DVDの作成、
イベントの開催やコンテストの実施など政治教育に留まらず、若者参画に関する様々な活動を行っている。

2002年からは、参加政党の政策マニフェストをデータベース化した投票マッチングサービス「Wahl-O-Mat」を行っており、2013年の国政選挙では38の質問に賛成か反対かを答えてもらい自分の選好に似た政党が提示された。こうした取り組みは州選挙でも行っており、州選挙の際には各州にある州の政治教育センターと協力して実践するという。
近年はスマホにも対応させるなどの工夫も行い、利用者は年々増加、2013年の国政選挙には1330万人が利用したほか、
学校教育でも利用が増加しているという。
直接政治教育を行うということだけでなく、こうした政治教育を行うためのインフラ整備や環境整備の重要性をあらためて感じる。

また、こうした政治教育を支える仕組みも多々あり、そのうちの一つに生徒会の存在がある。
今回の視察では、生徒会の支援やエンパワーメントを行っている生徒会支援団体を訪問してきた。
ドイツでは、各学校に学校の意思決定機関である学校会議があり、校長や教員のほかこの会議には生徒の代表も加わる。そのため、こうした学校会議での発言や提言は生徒会の大きな役割になる。この他にも生徒会は、学校内の日常的な活動やイベントの運営、さらには、生徒会連合による外への働きかけなども担う。冒頭紹介した若者に対する選挙キャンペーンもこうした取り組みの一つだ。
生徒会支援団体は、元生徒会役員といった経験者などで構成されており、
生徒会を支援する「生徒会コンサルタント」を養成するためのセミナー研修の実施やこの「生徒会コンサルタント」の派遣、アドホックな生徒会活動支援などを行っているという。
日本で生徒会というと、自らが活発に自治を行っているというよりも、停滞している印象があるが、「18歳選挙権」が実現するなど若者を取り巻く環境が変われば、政治教育に対する意識も変わってこなければいけない。その中で、知識としての政治教育ではなくアクティブラーニング的に体感しながら学ぶプログラムとしては、こうした生徒会の活動には大きな可能性を感じる。
現在、一般社団法人で生徒会活動支援協会を立ち上げ、こうした取り組みについても取り組んでいきたいと思っている。

今回だけでは、視察した内容さえも紹介しきれなかったが、ドイツでは、選挙を通じた間接参画においては、選挙権や被選挙権年齢の引き下げや、
啓発や討議を含めたキャンペーンといった取り組みが行われているが、これと同時に、若者の利益団体のエンパワーメントや、若者対話のチャンネルの制度化、国と自治体それぞれのレベルでの子ども•若者議会、自治体レベルでのまちづくりへの参画、さらにはICTを活用した参画も進められているなど多様な直接参画の仕組みが用意されていた。

同時に、生徒会および生徒会連合、エンパワーメントの仕組み、シティズンシップ教育の推進など学校教育内外での参画の仕組みも考えられている。
紹介しきれなかったものは、別の機会にまた紹介しようとも思うが、
こうした最新の若者政策先進国ドイツの先進事例をより多くの方々、とくに、若者政策に携わっている国及び自治体の関係者、政治教育の現場となる教育現場の方々、何より当事者である若者などに共有してもらいたいと考えており、12月20日に都内で、ドイツ視察報告会を行う。
当日は、ドイツ視察報告を行うほか、参加者も交え、今後の日本の若者政策を考えるワークショップも実施する。

日時:12月20日(土)13:30~16:00(受付開始13:15)
場所:TKP新宿駅前会議室 カンファレンスルームB1B
 JR新宿駅西口徒歩5分
 新宿区西新宿1-7-2スバルビルB1F
参加費:1,000円(学生:500円)
申込み・問合せ:http://www.rights.or.jp/

興味のある方には、是非、こうした機会も活用いただき、これを一つのキッカケに、この国の若者政策を大きく前進させていく動きを創っていければと思う。