安倍政権は、企業に賃上げを要請しています。経団連の榊原会長も「ベースアップをしてください」と会員企業に呼びかけました。でも賃上げしろといったら、賃金は上がるものなんでしょうか?
それなら経済政策は簡単ですが、そうは行きません。それは日本が自由経済だからです。賃金を決めるのは、経営者であって政府ではありません。だから赤字のときは、政府がいくら賃金を上げろといっても上げないし、利益が出たら何もいわれなくても上げます。
完全失業率(左軸)と実質賃金上昇率(右軸)出所:厚生労働省
ところが図のように、実質賃金(現金給与/物価指数)は、安倍政権でもずっと下がって来ました。この最大の原因は、高い給料をもらっていた正社員のおじさんがやめて、時給の安いパートやアルバイトが増えたことです。「非正規」と呼ばれる労働者の比率が労働人口の38%になっているので、就業者は増えたのですが、賃金が下がったのです。
他方で、経団連に入っているような大企業が海外にもっているドル資産は、ここ2年で50%近く上がったので、大きな特別利益が上がりました。しかしそういう大企業につとめている労働者は全体の1割ぐらいで、圧倒的多数の会社では、石油や電気代が2割以上あがり、経営は苦しくなりました。
これは当たり前です。もともとアベノミクスの目的は、インフレで賃下げして企業収益を上げ、円安にして輸出を増やすことだったのです。賃下げと円安はねらい通りでしたが、輸出は増えず、輸入額が大幅に増えて貿易赤字になってしまいました。
政府が価格を規制して賃金を下げる政策を所得政策といって、統制経済の一種です。政府が賃金を上げろというのは、世界にも類をみない逆所得政策ですが、うまく行くわけない。圧倒的多数の中小企業は「円安不況」で業績が悪化しているので、賃上げどころではありません。
インフレをあおっておいて実質賃金が下がったら「賃上げ要請」し、円安誘導しておいて「円安対策」をやっている安倍政権はちぐはぐですね。これは政治家が経済のメカニズムを理解していないからですが、せめて官邸スタッフはマクロ経済学を勉強してほしいものです。