日本で軽視される石油安のリスクとは --- 岡本 裕明

アゴラ

1月5日のニューヨークの株式市場は石油価格の下落傾向が止まらないことから大幅安となりました。石油がNY市場で50ドルを割り、金曜日比で5%以上下げていることを嫌気しています。

一般に石油価格が下がると「マクロ的」には消費が伸び、経済にはプラスとされていますが、今回のように急速、且つ、産油国のコスト、ないし、国家予算の想定を大きく下回る状態になると「ミクロ的」な産油国の経済に大きなブレが生じ、世界経済の不和を起こしやすいと考えられています。特に今や、経済は投資マネーを含め、世界が強く連携していることもあり、原油安→産油国不振→投資マネーの遺棄→世界規模の経済激震というシナリオができやすいことは事実であります。


例えばあのギリシャが金融不安になった際、何があの小国の問題を大きくしたかといえば投資マネーでありました。国債など所有している投資簿価を何%に落とすか大きな問題になりました。あるいはリーマン・ショックも結局はサブプライムローンとは何を指し、自分が投資している先には不良債権が何%あっていくら損するか、これが当初、皆目見当がつかなかったことが騒動の引き金の一つでありました。

つまり、今回の石油の価格下落についても産油国に様々な形で投資しているマネーの価値が維持できないほど下落すれば投資家は強制的に損失を計上することもあり、過去と全く同じシナリオの危機が訪れないとは言い切れないのです。

日本の一部の株式アナリストはこのあたりに鈍感で、石油価格下落は日本経済にとりプラスと言い切ってしまっている人もいるのですが、それは木を見て森を見ず、つまり、日本を見て世界を見ず、であり、歴史から何も学んでいないという事になります。

下落する石油価格の第一原因は需給バランスの悪化であります。ロシアとイラクは2014年度、近年まれにみる産出量となりました。つまり、石油の産出しすぎをデータが示しています。更にアメリカでもシェール減産の兆候はあまりないとされています。

風呂にお湯を溜めていて、程よい量を超えてバスタブからお湯が溢れたらどうしますか? 普通は蛇口を閉めます。本来であればOPECという石油の産出量をある程度コントロールしていた国々は蛇口を止めなくてはなりません。ところがこの石油風呂には蛇口がたくさんついていてサウジの蛇口やアメリカの蛇口、ロシアなどOPECに加盟していない蛇口などがバラバラで全開状態なのでサウジの蛇口だけ閉めても風呂のお湯はあふれるから「俺は蛇口を閉めたくない」と言っているわけです。

この状態、どこに結末があるか、といえばアメリカが蛇口を閉めざるを得ない状態になる時であります。つまり、石油は儲からないと認識した時でしょう。今、アメリカのシェール開発業者の判断は分かれています。大幅に開発予算を削減した会社の株式は上昇し、削減計画を見せない開発業者の株式は激しく下落しています。

では石油価格がバレル30ドル台や40ドル台で定着するか、といえばそれはないでしょう。なぜならその価格がニューノーマルとなれば中東など一部の産油国以外は石油生産が止まり、供給不足が起きるからです。カナダもアメリカも産油できないシナリオは商品市場の世界にはあり得ません。ニューノーマルとは石油に代わる画期的代替エネルギーが発見され、石油と対峙する関係になった時以外にありえません。シェールは技術革新という意味では素晴らしいものでありますが、代替エネルギー源ではありません。アメリカでも石油がたくさん取れるようになった、それだけの話です。

よって、石油価格が本格的に40ドル台に突入すれば市場がざわつくはずです。そして、損をする会社、倒産する会社、はたまた破たんする国家が表れた時、危機になりかねないという事です。我々は近年、複数回の投資マネーのレバレッジによる想定を超えた損害を見てきました。人間の英知、そしてプリベンティブ(予防的な)という発想がある限りにおいて早々に根回しを行い、OPEC臨時総会を開催すべきでしょう。

2015年の経済が安定感を持つかどうかはこの石油価格を安定させないことには何も始まらないとみています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2015年1月6日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。