「税率を上げたら税収が減る」というのは嘘である

池田 信夫

2015年度予算は96.3兆円という史上最大規模になったが、歳入の見通しも9%増えて54.5兆円となった。日経新聞はこれを「企業収益の拡大と賃上げのおかげである」と書いているが、これは間違いだ。財務省の資料を見ればわかるように、来年度に2.8兆円の歳入増が見込まれる最大の原因は、消費税の増税による1.8兆円の税収増である。


しかし安倍首相が「税率を上げたら景気が悪くなって税収が減る」というリフレ派の嘘を信じて、消費税の10%への増税を先送りしたので、この効果は15年度限りだ。「プライマリーバランスの赤字半減」という中期財政計画の目標は辛うじて達成できた(これは予定通り)が、2020年度にPBを黒字化するという目標は絶望的になった。

次の図のように「参考ケース」で2.1%の名目成長率を想定すると、15年度にPBの赤字を半減させることはできる。これが今回のケースだが、20年度には2.9%の赤字が残る。


これは15年度から10%に増税するという前提のシミュレーションなので、それを1年半先送りすると、20年度にPBを黒字化するどころか、赤字が今より拡大するおそれが強い。

安倍首相は「名目成長率が上がったらPBが改善する」という理由で、来年夏までに中期財政計画を見直すよう指示しているが、意味不明だ。上の図でもわかるように、今の計画でもPBはGDP比でみている。彼は20年度に黒字化という目標は変えないというので、赤字を減らすには分母の名目GDPを大幅に嵩上げするしかない。

その方法は一つある。金融抑圧で物価を上げれば、名目GDPは上がる。4%のインフレを10年ぐらい続ければ、政府の実質債務は半減する。これは理論的には不可能ではない。日銀がCPIに入っている商品をすべて買い占めれば、いずれ物価は上がるが、それが4%で止まる保証はどこにもない。