知らぬが仏では済まされない高額療養費制度の改正 --- 岩瀬 大輔

アゴラ

今年は定期的に保険ブログを書くことにしています。皆さんのお役に立つ話に挑戦しますので、普段は保険ネタを読まれないかたも、ぜひご一読ください。

さて。知ってましたか?

今年1月から「高額療養費制度」の改正によって、所得が高い人の医療費(自己負担額)が増えたことを

ここで、高額療養費制度を改めて簡単に説明すると、「病院や薬局の窓口で支払った医療費が一定額を超えた場合、超えた金額について健康保険から給付を受けられる制度」である。

公的医療保険は原則として、医療費の7割を公的保険が支払い、3割を患者が負担する仕組みになっている(70歳未満の場合)。もっとも、大きな病気を患うなど、医療費総額が多額になってしまった場合には、この3割負担が重くなり、経済的に困ってしまうことも考えられる。

そこで、自己負担額にも上限を設けて、超過額については保険から給付するのが高額療養費制度である。標準的な所得のケースで   は、上限は8万円+アルファ。たとえば1ヵ月の入院で150万円要した場合、3割負担の計算では45万円が自己負担となるが、高額療養費制度を活用すれば10万円程度ですむ。

いわば、「保険の中の保険」とも言え、これこそが公的医療保険の真骨頂である。(制度はさらに世帯で通算して上限を設けたり、月単位だけでなく一年を通算して上限を設けたりと、色々と工夫がなされている。また、健保組合によっては、独自の付加給付を行っているところもある。)

この公的医療保険の中核をなす高額療養費制度だが、認知度はまだ低い。内閣府の調査によると、2008年時点での制度の認知度は30代・40代では3割以下、50代・60代でも4割程度にとどまった。

例えば、東大の吉川洋教授は日本医療政策機構のインタビュー(2008年当時)で次のように語っていた。

私は、日本の医療保険は3割負担ではなく高額療養費制度が担っているとさえ考えている。しかし、この制度はあまりにも知られていない。しかも、昨年まで患者からの申告なしでは適用されなかった。昨年から条件付きだが申告なしでも適用されるようになったが、未だに、支払いが1医療機関で発生した場合のみ、医療機関での支払い時に高額療養費制度が適用され「月限上限」以上支払わなくてもすむ。複数の医療機関での支払いの月額総額を
管理・計算するシステムがないからだという。したがって、多くの患者が自ら計算して申告しなければ制度を使うことができないままだ。

優れた制度であっても、国民が知らなければないのと同じ。医療政策機構には、高額療養費制度も含め医療において知るべき情報を国民に広く提供することを期待している。」

認知度が低いことで、そもそも制度を使えない人が出てしまっていただけでな く、いざというときに自分がいくら負担するのかを国民が正確に理解していない結果、過剰に保険に加入する、いわゆる「オーバーインシュアランス」の状態になっていることが考えられる。

国の経済厚生を最適化するためにも、政府は高額療養費制度をもっと広く理解してもらえるよう、工夫すべきと考える(例えば、健康 保険証の裏面に大きく書くことや、民間保険会社の広告に記載を義務付けることなどが考えられる)。

改正された高額療養費制度の詳細は厚生労働省のホームページを参照してもらうとして、たとえば負担増がもっとも大きい年収約1160万円以上の人の場合、毎月の負担額が10万円程度増えることになる

これまでは「(自分の貯金などで賄える)高所得者にとって民間医療保険の必要
性は薄い」とも考えられてきたが、今回の改正によって、自己負担額が大幅に増えた高所得者の医療保険ニーズが高まるとも考えられる。

税や社会保障にかかわる国の制度変更については、ぜひ時間を使って理解し、個人のお金の管理を最適化したいものだ。


編集部より:このブログは岩瀬大輔氏の「生命保険 立ち上げ日誌」2015年1月11日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は岩瀬氏の公式ブログをご覧ください。