前回の拙ブログ「今年の日本経済・:4つの明るい材料」について、一本杉さんから「隣国のウォンに対する(円の)ハンディキャップが是正され、正当な競争になったことはもっと周知されるべきと思いますが」というコメントをいただいた。
ご指摘の通り、円に対するウォン安が一昨年来、ウォン高へと転換したことが日本の輸出に好影響を与えたのは確かである。鉄鋼、造船などの国内生産が中心の産業では特にそう言える。
ただ、ウォンだけでなく、ドルやユーロに対して円安が進んだにもかかわらず日本の輸出全体が思ったほど伸びず、貿易収支の改善幅も一定にとどまっている。
原因は過去の円高で繊維・衣料、家具、生活雑貨、電子、精密機械、自動車など日本の製造業の多くが中国や東南アジアに生産拠点を移し、国内工場の空洞化が進んだためである。
一方、韓国も賃金上昇などから生産拠点を中国や東南アジアに移しており、日韓のビジネス競争は円とウォンの為替水準だけでは判断できない複雑な様相になってきている。
大きな背景には日韓関係に限らぬ国境を越えたグローバル経済の広がりがある。
そうした中で円相場の行方には一喜一憂しない方がいい。私が前回のブログで書きたかったことの1つはそこにある。2010~2021年当時、1ドル=80円前後という超円高の流れに「このままでは日本の製造業は衰退してしまう」といった悲観論が広がった。
しかし、為替には明暗双方がある。円高は輸出産業にとっては打撃でも輸入産業にとっては仕入れ値の引き下げにつながって好都合だし、消費者にとっても物価が下がって喜ばしい。しかし、輸入物価引き下げがデフレを助長し、政府の財政再建を遅らせる。
為替の変動にはつねに長所と短所があるのだ。だから短所だけではなく、長所を見るべきだろう。コップに半分の水が入っている場合、「もう半分しかない」と思う悲観派が知識人層には多い。だが、「まだ半分ある。ここからもっと増やそう」という実践的な行動派が自身をも、日本をも良くする、と言いたかったのである。
サムスンなど韓国の電子産業の発展にはウォンだけでなく、巨額の設備投資への判断や新製品投入のタイミングなどで日本企業より優れた面があったことも否めない。日本企業ももっと前向きに取り組むべきだったと思われる。
これからも為替は変動するし、原油相場の下落、中国の不動産バブルの破綻懸念経済、欧州の金融情勢の変化など海外起点の経済環境の悪化は十分、考えられる。
しかし、どっちに転がっても、悪い点ばかりは考えにくい。明るい分野は必ず残る。円高(安)が一方の産業に打撃を与える反面、他方の産業に光明をもたらすように。
それに打撃を与えられる側もやり方次第でピンチがチャンスになる。コスト削減に取り組めば、ライバルが衰退して市場を独占できるかも知れないし、別の事業を見出して新たな成長軌道に乗る可能性もある。
優れた経営者は危機を逆手にとって業容を拡大できる。だから、そうした経済人はしばしばピンチを楽しんでいる風さえ感じられる。
前向きの企業人が増えるほど、日本経済は明るくなる。「稼ぐに追いつく貧乏なし」である。
編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年1月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。