批判を呼ぶ法王の「兎のたとえ話」 --- 長谷川 良

アゴラ

ペテロの後継者ローマ法王も時には口を滑らすことがあるものだ、といった印象を持った。

ローマ法王フランシスコは1月19日、スリランカ、フィリピン訪問後の帰国途上の機内記者会見で、随伴記者団から避妊問題で質問を受けた時、欧米諸国が開発途上国に避妊促進を求めていることについて、「外部から家族計画について干渉することはできない」と述べ、「思想の植民地化」と呼んで批判する一方、避妊手段を禁止しているカトリック教義を擁護しながらも、「キリスト者はベルトコンベアで大量生産するように、子供を多く産む必要はない。カトリック信者はウサギ(飼いウサギ)のようになる必要はないのだ」と述べ、無責任に子供を産むことに警告を発している。


多分、南米出身のローマ法王は冗談交じりに答えたのかもしれないが、「うさぎのように……」という発言内容が伝わると、「大家族の信者たちの心情を傷つける」といった批判だけではなく、養兎業者からも苦情が飛び出してきたのだ。

ドイツ通信(DPA)によると、ドイツの養兎業者中央組合のエルヴィン・レオヴスキー会長は、「全ての業者がウサギにどんどん子供を産まさせているわけではない。それは野生の動物だけだ。養兎の場合、繁殖は規則正しい秩序を持って行われている」と弁明する一方、「法王の馬鹿げた表現はむしろ避妊を認めることになる」と警告を発している。法王は養兎業者については何も言及していないが、業者関係者は、「自分の職業が批判された」と受け取ったのだろうか。

前ローマ法王べネディクト16世の場合、“口が滑る”といったことはなかったし、そもそも冗談をいうタイプではなかった。要点を明確に語るだけで面白味はなかったが、“口が滑る”といったスキャンダルは8年間余りの在位期間、無かった。

例外は、法王就任年の2005年9月、訪問先のドイツのレーゲンスブルク大学の講演で、イスラム教に対し、「ムハンマドがもたらしたものは邪悪と残酷だけだ」と批判したビザンチン帝国皇帝の言葉を引用したため、世界のイスラム教徒から激しいブーイングを受けたことだ。厳密にいえば、これは口が滑ったのではなく、法王の演説テキストに不都合な引用があっただけだ。学者法王らしいミステークだ。

それに対し、フランシスコ法王はプロトコールに拘らない、気さくな法王のイメージがある。これが法王の人気の理由かもしれないが、今回のように口が滑るといった事態も生じるわけだ。

法王のために弁明すると、法王は「うさぎのように……」という発言をする前に、申し訳ないが、と断わっている。だから、純粋に「口が滑った」というわけではない。多分、無責任に産み増やしてはならないと説明するために、不幸にもウサギを例に挙げただけだろう。他意はなかったはずだ。ちなみに、ウサギは一般的に多産のシンボルだ。

フランシスコ法王は気候の違う遠い国を訪問し、多くのストレスがあっただろう。ローマへの帰途に就いた機内でその疲れが出たのか、それとも気が緩んだのだろう。冗談の一つも言いたくなったか、それとも南米人特有のサービス精神が働いたのかもしれない。

なお、レオヴスキー会長は法王の発言に対し、「馬鹿げた表現」と批判した。法王に対し、“馬鹿げた”という言葉を使って批判した人物をこれまで余り知らない。同会長は法王の話によほど頭にきたのか、それとも“口が滑って”しまったのだろうか。「口は災いの元」といった昔の賢人の言葉を思い出す。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。