トヨタ自動車の2015年3月期の連結営業利益が前期比2割弱増え、従来予想の2兆5千億円を上回って過去最高の2兆7千億円前後となりそうだ。16年3月期は3兆円を突破するとの見通しも強まっている。
自動車産業は富士重工業も今3月期に初めて4千億円台に達する見通しとなるなど全般的に好調だ。このほか円安を受けて電子部品産業など、輸出産業全体に業績上振れの波が広がっている。
日本経済にとって明るさが増していると言える。輸出産業を中心とした業績拡大が賃金上昇を生み、ガソリンなどエネルギー安の恩恵とあいまって消費を押し上げよう。
トヨタの復活は日本経済の体質強化を象徴する。トヨタは08年9月のリーマンショックで09年3月期に戦後初の営業赤字に転落した。08年3月期は2兆3千億円弱と過去最高だったから、わずか1年で過去最高の営業益から戦後初の営業赤字へと転落した格好だ。今期、7年ぶりの過去最高益を更新したのである。
その原動力が国内工場の体質改善だった。1ドル=80円の円高下では業績悪化に苦しんだのが、今や世界で最も稼げる工場に変身、復活を遂げた。
徹底的にコストを削減する経営に徹したからだ。工場新設の停止、採用、研究開発費の大幅削減。リーマンショック前に「水ぶくれ」していた固定費を圧縮し、損益分岐点稼働率を下げた。
設備を小型化するなど製造ラインの改善、部品メーカーと協力して「乾いたタオル」を絞りに絞った。その結果、かつて80%を切ると赤字だった損益分岐点稼働率が、今は70%台でも利益を稼ぎ出す。
<前期(2014年3月期)の国内部門の営業利益は1兆5100億円と危機前の最高益だった08年3月期より700億円増えた。当時は国内生産が426万台、1ドル=114円だ。当時より生産台数が100万台近く減り、14円の円高にもかかわらず増益になったのは「真水」の収益力がそれだけ高まったことを表す。
豊田章男社長は円高時にも「国内生産300万台体制」の死守を掲げた。取引先も含めた雇用を守り、技術優位性を保つためだが、市場では「円高に弱く、高コスト」との指摘もあった。国内の収益性を高めることで、こうした批判を力でねじ伏せてみせた格好だ>(日本経済新聞1月8日付け)。
日経の同記事はこの後、賃上げや下請け企業への配慮、株主への利益還元などによりコストが再び膨らむ可能性があると懸念している。問題点を押えることは必要だが、私はそのマイナス面よりもむしろ収益拡大の恩恵を従業員や下請け企業、株主に還元するプラス効果の方が大きいと思う。
従業員や下請け企業の士気は高まり、株主の評価も高まって消費や設備投資が拡大するだろう。
トヨタ復活は日本経済を象徴する。2014年度は消費税増税などによりマイナス成長になったが、2015年度は消費税増税のマイナス効果がなくなったうえ、原油安に賃上げ、配当増が重なり、家計の購買力が高まる。
業績拡大に低金利が重なって投資も拡大する。長期国債利回りが限りなくゼロに近づき、債券運用益が全く期待できなくなった今、金融機関や機関投資家は株式運用に動く公算も大きい。株価上昇が景気拡大に弾みをつける。そこまで明るく見ると、楽観的にすぎるという批判が出よう。が、ここは強気で見ていきたい。
編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年1月26日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。