そろそろ安倍政権を倒したいあなたに授ける戦略

倉本 圭造

イスラム国の日本人人質事件に関して、安倍政権批判が盛り上がっているようです。これは安倍の責任だ。責任取って辞任しろ・・・という話も出ているらしい。

あなたもそのタイプの人だとしたら、それに対する「そんなことしたらテロリストの思うつぼじゃないか」的な批判は聞き飽きた!という感じかもしれません。で、それに対するあなたがたの論理も、色々と読みました。気持ちは結構わかる部分もある。

だからこの記事は、もしあなたが「安倍政権を倒したい」と思っている、あるいはとりあえず安倍政権は支持してるんだけど、時にやりすぎるきらいのある彼らが、この事件を機にさらに「やりすぎる」方向に行ってしまわないかを懸念している・・・というあなたの声を日本の方針に反映させていくための「戦略」についてお話します。

それは一言でいうと、「北風と太陽」の話のような問題で、「今のタイプの安倍批判を一方向的に押し出していくだけでは、逆により安倍政権側が過激化せざるを得なくなるメカニズム」が日本にはあるので、そのへんを理解した上で、憎き安倍政権を倒すのなら「この方向」で一致して戦略的に押していくべきだ・・・という方向の話となっています。


この記事を書いている時点では湯川さんの死亡はほぼ確定で、後藤さんの命に関する交渉が続いているそうです。

なんかこの事件はあまりに重すぎて、これを自分の意見を表明するためのネタにしちゃうというのが少し気が引けていて、ネットでは完全沈黙してたんですが、そうも言っていられないし、ひょっとすると何か役立つかもしれないし、そもそも結局人間にできるのはネタにして自分が話せることを話すってことだけなんだとも思うので書きます。(シャルリエブドは問題なくネタにしてたんだから、今回だけしないのはそれこそエゴだろって話もあるし)

目次はだいたい以下のとおりです。

1・安倍氏の影響はどの程度かはわからないが、「安倍批判をしたい気持ち」をどうやって吸い上げるかは考える必要がある。
2・「アンチ安倍」ではなく「ど真ん中のフェアネス」を旗印にしていこう
3・リベラルにとって安倍政権と向き合うことはイスラム国と向き合うことと同じこと
4・グローバリズム2.0の時代に日本が示せる可能性

さて以下本文。

1・安倍氏の影響はどの程度かはわからないが、「安倍批判をしたい気持ち」をどうやって吸い上げるかは考える必要がある

今回の事件の第一報について、「いつか起きるだろう何かがついに来た」という感じを個人的には受けました。

その後、自分のツイッターのタイムラインを見ると、

A「これは安倍のせい」派
B「憲法9条さえあればなんとかなるはずだったんじゃないんですか?(嘲笑)」派

が、それぞれの見解をサポートするありとあらゆる論理とファクトと数字を駆使してツイートやリツイートを連打していて、個人的には色々と考えこんでしまいました。

で、私の普段の立ち位置は、安易に「安倍批判」をする人とは距離を置きたい人間なんですが、ただ今回に限っては「安倍批判」の気持ちを「完全シャットアウト」的な態度で望むと、日本社会はさらにさらに本来あるべき連携とは違う道に入り込んでしまいそうな予感がしています(例えば民間でかなりイスラム国よりの方の交渉参加を排除せざるを得なくなったりとか、あるいは過剰に”VSテロ戦争”的なものにのめり込んでいくモードに安倍政権がなってしまったりとか)。

つまり、「安倍批判がここまで出てくるという状況」自体を現象として捉えて対処していくことがどちら側の人間にとっても必要なんですよね。「どちら側の」人にも、そしてタイトルどおり「安倍政権を倒したい人」にとって意味がある内容にできると思っています。

この事件について聞いた瞬間は私も「安倍首相のせいかもしれないな」と思った方なんですが、その後数日色んな「事情通」の人の意見を見聞きしていると、「安倍首相のせい」とか言うのは安倍首相を過大評価しているという話もあるようで。

つまり日本国内においては安倍vs反安倍というのは大問題だけど、イスラム圏の人にとっては「安倍?誰それ?」状態なので、結局イスラム国にとってみれば日本の首相が安倍氏だろうと誰だろうと日本人を二人捕獲できたんだから脅迫は当然やるよねという話に過ぎないという話なのかもしれない。

ということになると、安倍氏云々ではなくて、これは結局「欧米側に立っている国」としての立場を築いてきた戦後日本の歴史の、当然の帰結として「来るべきものが来た」という風に考えるべき物事なのかもしれない。

一方で、二人を捕獲してからもともと個別に脅迫はしてたんだけど、安倍首相の今回の中東歴訪が引き金となって「あの動画」を投稿するレベルにまでエスカレートしたという考え方もあるらしい。

もっとざっくり言って、全体として「安倍首相的」な方向性で、「欧米(特にアメリカ)との連携を強化していくような動き」をしていった結果、イスラム社会にとって日本は「昔アメリカに立ち向かった俺たちの仲間」ではなく「アメリカ側に立っている俺たちの敵の一味」扱いされるようになったのだ・・・という話なのかもしれない。

だとしたら、やはり安倍氏の存在が引き金になって今回の事件は起きているという見方も、ありえるのかもしれない。

どの程度の状況なのかは、中東に詳しそうな人の意見を聞いてもまちまちなので、私にはよくわかりません。ただ、全体的な「方向性」の問題として、今後とも日本はこの件に関して「安倍的」な方向へ行くべきかどうか・・・という風に考えると、彼個人の影響力がどの程度かは別として累積していくと大きな「違い」になってくるはずなので、その「方向性の是非」自体は一度みんなで考えてみるべき内容であるように思います。

これを「安倍氏が関係する問題」だと思うと彼に対する個人的な好き嫌いが凄く影響してしまうので、一度冷静になって、「日本は今後、アメリカ主導的な世界秩序にどの程度コミットするべきか」というふうな捉え返しをした上で、冷静に考えてみたいと思うのです。

なぜなら、今回の件で「安倍のせいだ」と盛り上がっているグループの中には、一部にはかなり感情的になっている人もいますが、

そこにある「感情」を全て排除していってしまうと、安倍政権は安倍氏が狙っているよりもさらに「安倍色」を過剰に出していかざるを得なくなる可能性がある

からです。凄く図式的なたとえで言うと、

「ちょっと左にハンドルを戻すと物凄い強烈な”感情のウネリ”に巻き込まれてしまうので、逆にいっそ右にがーんとハンドルを切ってしまえ!という方向に盛り上がってしまう可能性」がある。

それは安倍政権支持者にとっても安倍氏本人にとっても良いことではありませんよね。もちろん「安倍政権批判をしている人」にとっては最悪の道です。

ではどうすればいいのでしょうか?それは次回ということにします。

長くなってきたのでアゴラでは分割して掲載しています。一気読みしたい方はブログでどうぞ。

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倉本圭造
経済思想家・経営コンサルタント
・公式ウェブサイト→http://www.how-to-beat-the-usa.com/
・ツイッター→@keizokuramoto
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