ピケティが来日して日仏会館で講演したが、世代間格差について「若い世代の低中所得者の税率を下げ、トップの所得の税率を上げるべきだ」(2時間経過前後)という話は、見当違いである。彼の話が、お涙ちょうだいの「格差社会」論に利用されないようにコメントしておく。
私の『日本人のためのピケティ入門』でも、彼のいう資本収益率や資本/所得比率による格差が日本には当てはまらないことを指摘したが、世代間格差は最終段階で落とした。これはピケティの示したマクロ経済的な格差とは違う政治問題だからだが、この判断は誤りだった。
『21世紀の資本』の基本テーゼは「階級間格差が世代間格差より大きい」ということだが、これは日本には当てはまらない。彼は所得税の累進性にこだわっているが、問題は税よりも社会保障である。次の図(産業構造審議会の資料)のように、日本の年金の格差は世界最大であり、フランスの4倍近い。
この解決策は簡単で、年金の支給額を下げることだ。長期的には、年金を賦課方式から積立方式に変える必要があるが、これについては彼は否定的だ。「政治的に困難だ」というが、そんなことを言ったら「グローバルな資本課税」は政治的に不可能だ。社会保障の負担を平等化すれば平等になるというのは、経済学的には自明だが、政治的には不可能に近い。日本ではそれが最大の問題なのだ。