この記事は、日本時間の2月2日月曜日にNHK-BSで放送されるアメリカのアメリカンフットボールNFLの決勝戦、スーパーボウル(サッカーワールドカップと並ぶ世界最大級のスポーツイベント)を、アメフトなんて全然興味ないし何にも知らないあなたもそれなりに楽しんで見るためのガイドです。
前中後編になっていてこれは後編です。前編はこちら。中編はこちら。
全体の目次は
1・スーパーボウルを見るとこういう良いことがある!
2・ルールの簡単な説明(ほんと簡単に)
3・アメフトのプレイスタイルの変化とグローバリズム
こう↑なっていて、1が前編、2が中編に書かれています。それなりの興味や最低限の予備知識はすでにある・・・という方は、前・中編は飛ばしても良いかもしれません(それなりに面白い文章だと思うので読んでみてもいいかも)。
今回の記事から始まる「3」の、アメフトのプレースタイルの変化、昔は「絶対権力」を持っていたクォーターバックのポジションがだんだん「平等なみんなの中の一員」的な存在に変わってきている流れの変化・・・といった話をお読みになると、スーパーボウル一試合を観る楽しみが増えるし、何かしら日本や世界の動向に対するヒントになるはずだと思っています。
では以下「3」から後編が始まります。
3・アメフトのプレイスタイルの変化とグローバリズム
QBというのは毎回彼にボールが渡った時点でプレーが始まる・・・という、サッカーの「司令塔」どころじゃない「強制的な権限」が抜群にあるポジションで、ここまで強権持ってるチームスポーツのポジションはなかなかないんじゃないか・・・というぐらいの存在なんですね。
だからこそ、80年代のハリウッド映画で、最初はいじめっ子として登場しながら最後にヒドイ目にあうキャラクター・・・みたいな、「アメリカの強さ(と傲慢さ)の象徴」的なスポーツマンのイメージがあるんですよ。
で、そのQBを、他のスポーツでは大相撲ぐらいでしか見ないような巨体のラインマンと呼ばれる男たちが「肉の壁」になって守るんですが、そのラインマンに守られた「砦」の中を『ポケット』っていうんですね。
防御側は、その「砦」の中になんとか入り込んでQBがパスを出す前にタックルして倒してしまおうとする(”サック”という)。それを攻撃側チームの「肉の壁」ラインマンたちが守ろうとする。
伝統的なアメフトのプレイスタイルは、この『ポケット』の中のQBはそこで「守ってもらう王様」として存在していて、守ってもらえている間の時間を利用して縦横無尽なパスをバンバン投げることがQBの真骨頂・・・みたいな世界なんですよね。
こういうタイプのQBを『ポケットパサー』というんですよ。
一方で、最近、特に西海岸のチームに多いんですが、「QBだって色々あるアメフトのポジションの一個にすぎないよねー」的な感じの新潮流があるんですよ。だから、ポケットの中に守られた状態でパスを投げるだけの役割・・・じゃなくて、QB自身もホイホイ走るんですよね。
走って走ってそこでまたパスを投げたりとか・・・そういう自由なプレースタイルが台頭していて、こういうQBを『モバイルクオーターバック』というんですよ。
で、前編中編でも何度かもう書いていますが、今のアメフトはこういう
「伝統的ポケットパサー型クォーターバック」
vs
「新時代の自分も走っちゃうモバイルクオーターバック」
という大きく違うプレイスタイル、キャラクターが、その有効性を競い合ってぶつかり合う・・・という、なかなか「世界の風潮」と表裏一体なものを感じる状況になっているんですね。メインフレームコンピューターと分散型ネットコンピューティングだとか、トップダウン型組織とフラットな自律型組織だとか、そういう「よくある対比」がものすごく当てはまるような世界が広がっている。
簡単に言うとある意味で、「モバイルクオーターバック」は、「アメフトのサッカー化」と言ってもいいかもしれない。
完全に確立した中心プレイヤーがいて、計算され尽くしたプランに従ってバンバンとパスを通していく・・・のが伝統的アメフトだとすると、モバイルクオーターバックはポケットの中に守られていないで変幻自在に走りまくるし、走ったかと思えばパスしたり・・・ってう「入り乱れ感」が非常にサッカー的な感じなんですね。
・
で、一昨年(2013年2月開催、つまり2012年度シーズン)は、まだ「アメリカの伝統」が生きていた感じで、ギリギリで「ポケットパサー」チームが勝ったんですよね。レイ・ルイスっていう黒人の鬼軍曹みたいな「凄味のある選手」がついに引退試合・・・って感じでもあって、そういう存在感でなんとか「アメリカの伝統」が押し切って勝った・・・みたいな感じだった。(凄い接戦だった)
しかし去年(2014年2月開催、つまり2013年度シーズン)は、ついに「めっちゃ自由なモバイルクオーターバック」なチームが圧勝したんですよ。
それが本当に「圧勝」って感じで、物凄い「印象的な時代の交代劇」だったんですよね。平成三年五月場所の千代の富士vs貴乃花的な感じ(笑)
内陸の伝統的チームデンバー・ブロンコスvs西海岸の新文化チームのシアトル・シーホークスだったんですが、デンバーのQBはペイトン・マニングという超ベテランで、NFL史上最高のQBの一人と言われる、つまりは「ザ・伝統的クォーターバック」みたいな感じのプレイヤーだったんですね。
ペイトン・マニングは顔見ただけで、ほんと80年代のハリウッド映画で最後にヒドイ目にあいそうな、いわゆる「ジョック」って顔つきの人です。
アメフトは一回のプレーごとにオフェンスの選手が集まって作戦会議的なもの(”ハドル”という)をするんですが、そこでのペイトン・マニングの振る舞いは本当に「ザ・リーダー」という感じで、「俺についてこい!勝とうぜみんな!」って感じなんですよ。
逆にシアトルの方のクォーターバックはある意味たった二年目のペーペーで、しかもホイホイ走っちゃうモバイルクオーターバックだから、どうもこう、バシッとしたスター性がない。結果として圧勝したんですが、試合終わった後、ちゃんと最初から最後まで見てた私も「えっと、で、彼はなんて名前だったっけ?」ってなかなか覚えられなかったぐらいです。
好意的にいうと、俺がQBだ!みたいに気取ってなくて、QBなんて色々あるフットボールのポジションの1つでしょ?みたいに思ってる部分があるんじゃないか、っていうぐらいフラットな感じなんですよ。
でもそのへんが、こだわりのない自由さみたいなのに繋がってて、ただのモバイルQBというよりは、ポケットから出て走り回ってみたあげくに、お、今投げれるやん!ってなったらギャーンってパスしたりとか、なんかそういうところが「新時代」な感じの選手なんですよね。
ペイトン・マニング的な「ザ・クォーターバック・ヒーロー」みたいなものに対するアメリカ人の郷愁みたいなのは多分かなり強いので、昨年の試合前の下馬評的には、デンバー圧倒的有利・・・って感じのことを言う人が多かったように思います。
でも実際やってみたら、シアトルの方が「圧勝」してた。
なんかこう・・・いやほんと、マニングの良いとこ全然なかった・・・って感じだったんですよ。
ある種のアメリカ人的には結構ショックだったんじゃないかなと思います。
日本人が長嶋茂雄に郷愁がある、巨人軍に郷愁がある・・・っていう感じの、「俺たち流のヒーロー」がマニング的QBだと思うので。
なんか、そういう存在が、「うぇーい」っていう感じのチャラめのサッカー部的な文化の存在に負けたらショック・・・みたいなとこあるじゃないですか(笑) まさにそういう感じで。
デンバー側の攻撃から始まったんだけど、いきなりマニングがポジションに付く前に味方が間違ってプレー開始のトスを出しちゃって、で放り出されたボールがコロコロ転がってそれでいきなり得点取られたりしてね。(それで一回目の攻撃終了)
シアトル側に、ワイワイとチャラい感じで融通無碍のラン攻撃をしかけられ続けて、何回か物凄い長距離走られてタッチダウンされたりして。
マニング的に、「俺が中心だ!」っていう部分をガチッと押さえておいて、で一個一個ロジックを通してツメて行くようなプレイスタイルが、「なんか全員でワイワイやってる」みたいなチームの自由さに飲み込まれてしまって、終わってみたら 「凄く大きな差」になって終わった・・・・っていうのは、なんだか『時代』を感じたんですよね。
その前年度にもそうなりそうだったんだけど、でもギリギリ老鬼軍曹のラインマンの存在感でそうならなかった・・・っていうような世界に、去年はあっけなさすぎる感じで入った・・・・ような感じで。
ある種の「伝統的なアメリカンヒーロー」の終焉っていうか。
でも繰り返すようですが、シアトルのQBの名前、今検索しなきゃ出てこなかったぐらいなんで(ラッセル・ウィルソンさんというそうです)、だから「古いタイプのヒーロー」に対して「新しいタイプのヒーロー」が勝った・・・って感じじゃなかったんですよね。
むしろ、「古いタイプのヒーロー」を、「ヒーロー不在のチーム」が倒してしまった・・・・みたいな感じだった。
今私はこれをグーグル日本語入力ソフトで打ち込んでるんですが、ペイトン・マニングは勝手に中黒(・)が間に入って予測変換されますが、ラッセルウィルソンは出てこないですからね。なんかこう・・・スーパーボウル優勝QBなのに、名前がどうしても入ってこないタイプの選手なんですよ。もちろん、本式のアメフトファンには当然の名前かもしれないんですが、ニワカにとってみたらね。
でも、そういう時代の変化ってあるな・・・と思ったりして。
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で、今年どうか?っていう話なんですが、なんとそのシアトルの地味QBラッセル・ウィルソンさんが、二年連続でスーパーボウルにチームを引っ張ってきたんですよね!侮るなかれ!
まとめると、
去年は、
ザ・バキバキの体育会系の伝統的クォーターバック
vs
西海岸のチャラい系文化の二年目ペーペークオーターバック今年は、
スーパーモデルを妻にするようなイケメンスターの伝統的クォータバック
vs
地味なのになんと二年連続スーパーボウル進出を果たした三年目の新人類モバイルクオーターバック
の戦いなんですよ。
今年のシアトルの対戦相手は、ボストンが本拠地の「ザ・東海岸のエスタブリッシュメント・チーム」であるニューイングランド・ペイトリオッツ。
そのチームの「ザ・伝統的ポケットパサー型QB」は、トム・ブレイディと言う人なんですが、トム・クルーズ似のNFLを代表するイケメンで、「世界で最も美しい50人」に選ばれたこともあるとか。しかも奥さんはスーパーモデルのジゼル・ブンチェン。
ちなみに、トム・ブレイディもジゼル・ブンチェンも、グーグル日本語入力で簡単に予測変換されます。二年連続スーパーボウルにチームを導いた英雄ラッセル・ウィルソンさんの立場がないでほんましかし。
トム・ブレイディはほとんど自分では走らない典型的な「ポケットパサー」で、でも本当に「スター性」のある選手です。ペイトン・マニングとはまた違った意味で、「イケメン的スター性」がある。残り時間がほとんどなくてかなり自陣奥に追い込まれていた状況から、物凄い大逆転パスを通して勝っちゃうみたいなことが、実際にあるし、見てる方も期待しちゃうようなスター性を持っているんですよ。
で、「男社会のホモソーシャル的存在感(つまり、ザ・”体育会系”イズム)」で「伝統的中心性」を守ろうとした去年のペイトン・マニングが「液状化したドロドロの新時代のチーム」に飲み込まれて敗けてしまったような流れの中で、イケメンスター選手トム・ブレイディはあくまで「アメリカの伝統」を通すことができるか?が今年のスーパーボウルの注目ポイントなわけですね。
興味が湧いたあなたは、日本時間でいうと2月1日日曜日の夜にあるNHK-BSの直前特集番組をとりあえず見て、翌月曜日の午前中にある本番は平日昼間なんで録画でもしておいて、時間がある時に3時間だけ見てみようかな・・・とやってみてはどうでしょうか?
もしはまったら、私のようなニワカでなく、もっと本式に知識のある方のサイトを見に行くようにしましょうね!
・最後に。
私は結局ただのニワカに過ぎないので、本当に詳しい方から見ると多少誤解や誇張が含まれた文章になっているかもしれませんが、あらたなファンを獲得するための方便だと思ってご容赦いただければと思います。
この記事を書いた動機は、この「プレースタイルの変遷」が、世界の大きな組織形態の変化の流れと「非常にわかりやすく呼応」していて、そこに日本の今後の進むべき道もあると思っているからです。
日本って、「ザ・レガシー大企業」が「強権的存在」として存在する上意下達文化なところだから、「シリコンバレー的な新時代の動き」には対応できないんじゃない?って思いますか?
でもね、今の日本サッカーって、この「モバイルクオーターバック型」をさらに推し進めたような縦横無尽なサッカーを目指しているじゃないですか。いわゆる「自分たちのサッカー」ね。
で、そういう風に「中心がいなくなる」と、中心がないから「勢い」を維持できなくなったらメッチャ弱いけど、「勢い」がある時は凄い強いですよね。今回のアジアカップも、ダメな試合はほんとダメだったけど、「最高の試合」だけ取ってみたら「これ凄くない?」ってプレーもあった。次々とお互いが空気を読み合ってバックアップに入って細かいパスが通って行く、「ジェットストリームアタック」みたいな世界。
日本は変化に対して世界一臆病なように見えて、ある種「これからの日本の勝ちパターンはこうだよね」っていうコンセンサスが広い範囲にできさえすれば、
「俺たち日本人のォォォォォ空気を読んじゃう力はァァァァァ世界一ィィィィィィできんことはなぁい!」
的な超絶連携を、経済全体レベルでも実現できる可能性があると私は思っているんですよね。
つまり「モバイルクオーターバック型」の、「絶対的中心」が消えていく世界の中の、「なんか全体で一つの生き物のような連携」という世界観を世界最先端に追求できる可能性があると私は考えているんですよ。
日本を「そういう状態」に持っていくことが、私個人のライフワーク的テーマなんですよね。
そういう方向性について、経営コンサルタント兼経済思想家として、色々と追求してきたコンテンツがありますので、興味をもたれましたら、
・去年のワールドカップ中に書いたサッカーについての話題ならコレ(ネットでかなり評判になって恥ずかしながらテレビにも出させていただきました)
・政治経済に関する話題ならコレ(最近のイスラム国事件に関する話題から、日本全体の今後の舵取りについての話)
などを手がかりに、私の一連の活動に触れていただければと思っています。
長文をここまでお読みいただいてありがとうございました。
今後もこういう「アメリカの時代の終焉」と、その先にある『グローバリズム2.0』の世界における日本の可能性・・・といった趣旨の記事を書いていく予定ですが、更新は不定期なのでツイッターをフォローいただくか、ブログのトップページを時々チェックしていただければと思います。
倉本圭造
経済思想家・経営コンサルタント
・公式ウェブサイト→http://www.how-to-beat-the-usa.com/
・ツイッター→@keizokuramoto
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