ピケティを巡る読売VS朝日な件

新田 哲史

150204ピケティヘッド
どうも新田です。常見のアニキが宇佐美君に続いて、ちきりん婆にツイッターでブロックされたそうですが、私は婆様にも荻上チキりんにもブロックされて久しいこの頃です。ところで、同じ舶来書ブームでも「ワークシフト」と違って、弱者に冷淡な婆様がおよそ興味なそうなピケティ先生のブームは、4日間に渡るご本人の来日イベントもつつがなく終了して一区切りでしょうか。それにしても、ここにきて、6000円近い分厚い本があまりに売れるので、どうやら政権サイドや保守クラスタが警戒モードになっているようです。


首相と民主、格差論争…ピケティ氏著作巡り読売新聞 1月30日)

衆院予算委員会での質疑が29日に始まり、安倍首相と民主党が「格差」問題をめぐり、激しい論戦を展開した。(中略)民主党の長妻昭代表代行は、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏の著書「21世紀の資本」に触れ、格差問題を追及した。(中略)これに対し、首相は「ピケティ氏も成長は否定していない。成長せずに分配だけを考えていけば、じり貧になる」と真っ向から反論した。

先日、池田先生と話した際、民主党で「ピケティ」ネタを使いこなせる論客は長妻さんしかいないね、とお互いに予想していたんですが、民主党がどこまで咀嚼しているかは別として国会での論戦の質が上がるのであればいいことだと思いますよ。自民一強で緊張感がなくて論戦で困るところですが、政権側が多少は神経質になっていることはいいことでしょうね。そのあたり読売新聞が触れていて特に太字のところには苦笑い。

すると、長妻氏は「適切な分配がなければ、持続的な成長ができない」と応酬。首相は「ピケティ氏は本書で『日本は1945年以降、格差の顕著な拡大はない』と述べている」と指摘し、格差問題に固執する民主党や長妻氏をけん制した。首相側はこの日の論戦に向け、早くから準備を進めていた

そういえば、朝日新聞は今年の元日に1ページを割いてピケティ先生にインタビューをしていましたね。昨年の不祥事に意気消沈していた朝日としては、格差問題に新たな照射を当てた先生を新たな飯のタネにできると喜んでたんでしょう。実は池田先生と同じくピケティの入門書を出しているのが元朝日記者の竹信三恵子さん。しかし、そこは従軍慰安婦問題で本領を発揮した築地の伝統芸、海外ネタの自己都合解釈の落とし穴があるかもしれません(案の定、先に読んだ知人は「ピケティにかこつけてアベノミクス批判をしている」と呆れておりまして、今度書評がてらに買ってみようかな)。

ちなみに過去記事を調べてみると、朝日は昨年6月14日付でいち早くピケティ先生のインタビューを実現しており、ライバルの読売が初めてピケティを取り上げたのは8月24日付。しかも記者の書いた記事ではなく、一面の「地球を読む」で経済学者・猪木武徳先生の寄稿でした。結局、その後も朝日の掲載が多くて2014年は朝日が22件。読売は12月5日付でご本人にインタビューしたものの8件どまりでした。

それで今年に入っても頻度の傾向は大きく変わらず、読売は、世間で書籍が売れ始めてもあまり興味ないのかと思っておりましたが、1月27日付の解説スペシャルでドドンとやってきました。これがある意味、すごい(汗)だって、本人や版元のみすず書房が怒りそうな“バッシング”紙面になっております。

150127読売ピケティ
見出しだけを紹介すると、こんな感じ。

「ピケティ氏『21世紀の資本』どう読むか」

「『格差拡大』根拠に異論も」

「提案は本当か 資産課税『副作用の声』」

「データ原資料と食い違い 手法に見落とし」

お、おう。。。(汗)
小見出しも微妙にボディーブローを効かせてきます。

「改ざんの可能性」

「見かけ上の数字」

まぁ、批判的に検証するというスタンスはいいと思うんですが、私と親しい東大の某教授先生なんか引いてましたね(苦笑)一応、アメリカや日本でそれなりに売れているのだから、支持されている背景なんかを丁寧に読み解く部分もあったほうが本を読んだことのない読者にもやさしいとは思いますが、前日の社説では「ピケティ説に乗じ、過剰な所得再分配を求める声が、日本でも強まってきたのは気がかりだ」と、警戒感をにじませておりまして、「トンデモ本」扱いするのも一つの流儀といったところでしょう。なお、特集で経済部の栗原記者が書いた「日本の場合は高齢化も格差要因」の記事は池田先生と同じ視点で、ピケティ本から漏れている日本の事情についてバランスよく論評していたことは付言しておきます。

ちなみに朝日の記者さんはツイッターを社で奨励してますんで、ピケティの感想ツイートをこまめにしている勉強熱心な記者さんもおります。私がフォローしているのが政治部の鯨岡仁さん。読売の特集に関しても率直な感想を述べてますが。。。
鯨岡1

一方で、こういう冷静な視点で指摘も。
鯨岡2
とりあえず竹信さんあたりの旧世代よりは好感が持てますし、読売の栗原記者と建設的な議論が期待できそうです。「ジャーナリズム視点から見たピケティ論争」的な動画対談やイベントもありのような気がしますが、いかがでしょうか?よろしければ企画いたします(手もみ)

【お知らせ】NewsPicksの池田先生の連載「5分でわかるピケティ」好評です(有料記事の全5回、初回無料)。あすの第4回は、関心の高い「格差」について検証します。

新田 哲史
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
個人ブログ新装開店しました