農業改革 これからが茨の道

岡本 裕明

JA全中が全国700の農協の監査指揮権を手放し、2019年3月末までに一般社団法人となることで政府側と合意したとのニュースは日本農業の産業化の第一歩につながり、喜ばしいことであります。

日本の農業問題とは戦後の小規模農家の育成を目的に農協と農家の一体化、それが最終的に強力な集金マシーンと化し、選挙の時には票田となり、自民党は農協に足を向けて寝られない関係を築き、食の自給率を盾にその牙城がなかなか切り崩せない状態が続いていたことであります。


しかし、ここにきて専業農家と兼業農家のインタレストの相違、農業従事者の高齢化と耕作放棄地の増大が農協を取り巻く環境を激変させつつあります。昭和36年の日本の農地は609万haだったのが平成22年には459万haとなり、この減少の内訳は耕作放棄が44%で非農業転用が55%となっています。

農協が既得権に執着し、海外との競争は端から諦めていたその姿勢に若者などからは成長性などの魅力に乏しいと思われたこともなかったとは言えないでしょう。つまり、今の状況を作ったのは農協の体制そのものにあったともいえ、JA全中の降臨は遅すぎたとも言えるのであります。

さて、農業改革の幕は既に切って落とされてしばらくたちますが、日本の農業は本当に一部で言うほど高い競争力を持っているのでしょうか?

個人的には品種改良など潜在能力としては極めて高いと思いますが、マーケティング力、販売力、そして、それ以前に市場が洗練されていないことでまだまだ相当茨の道であると思っています。

日本の中にコメのブランドがいくつあるかご存じでしょうか?約300とされています。なぜこのようなことが起きたのでしょうか?それは農協単位、あるいは県単位で競争する体質ができてしまったからであります。「おらが村」的なスタンスにより隣に負けないコメ作りに励んできたとも言えます。それは競争による品質向上には役立ったと思いますが、大量生産によるコストダウンや効率化の点で劣っています。

これが何を意味するかといえばこれからこれらのブランドが淘汰され、10-20年で3-5つ程度のブランドに集約されるプロセスを取ることになります。その間、ジャポニカ米を競争力あるコメとして輸出するマーケティングをしなくてはいけません。これは誰がやるのでしょうか?農協ですか?政府ですか?私には無理だと思います。民間企業がかなり戦略的に行わなくてはいけないでしょう。

さて、世界には約1000種類のコメがあるとされていますが、日本のコメは他国で流通している米とタイプが違うのはご存じでしょうか?日本は炊飯する際に水をコメに吸収させることでふっくらと炊き上げます。他国のコメは基本的にパサパサです。そして料理もパサパサのコメをベースに作られています。中国のチャーハン、インドのカレー、スペインのパエリアどれもそうです。ジャポニカ米(スティッキーライス=ぺちゃぺちゃのコメ)は世界では独特のコメで、あえて言うなら、日本人が共感できるのは多分韓国のコメだと思います。

つまり、このままではメードインジャパンのコメは海外では寿司などにしか転用が効かず、コメ市場を作り上げるには圧倒的な市場欠如となるのです。それ故ジャポニカ米の特性を生かした美味しい料理、レシピ、レストランのメニューを開発、啓蒙、市場発掘する本当に長い道のりがこれから待っているのです。

農業がこれから産業界において期待の星であることには変わりありません。しかし、これを数字として大きく伸ばすには相当組織だった大がかりな仕掛けが必要でしょう。

ところで植物工場は日本が世界をリードする技術であります。こういう産業型の農業もありかと思います。また、人工光合成の技術が進んできていますのでコメも建物の中で作られる時代が早晩やってくるとみています。その時、本当の意味での耕作放棄地の対策が政府レベルでは必要になるでしょう。

農協の作り出した栄光の後始末は数十年かかることになるとみています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 外から見る日本 見られる日本人 2月10日付より