法王、子供のお尻なら叩いていいの --- 長谷川 良

アゴラ

世界に約12億人の信者を誇るローマ・カトリック教会の最高指導者、ローマ法王フランシスコは4日、一般謁見の際、子供を持つ一人の信者から「子供を叩くことは許されますか」と聞かれた。子供好きで知られるフランシスコ法王は、「子供の威厳を損なわず、子供の過ちを修正することが大切だ」と述べ、子供を時には叩くが、顔は叩かないように注意しているという親に、「それはいいことだ」と答えたという。


法王の「教育の場の暴力容認説」のニュースが流れると、子供の教育に熱心なカトリック信者の親たちはビックリ。物理的な暴力を行使せずに子供を正しく教育したいと考えていた親たちはローマ法王の暴力容認とも受け取れる意見に戸惑いと批判の声が出てきている。オーストリアのカトリック教会家庭協会は「子供の養育で暴力を行使することは絶対に容認されるべきではない。さもなければ、子供の虐待が起きる」と強く反論している。

ローマ法王の暴力容認発言が信者たちの間で大きな波紋を投じていることに懸念したバチカン法王庁のロンバルディ報道官は6日、「法王は子供の威厳を損なわないように子供の過ちを正すべきだと発言しただけだ。決して親の暴力を積極的に支持したのではない」と説明し、理解を求めている。

深夜、子供が目を覚まし、激しく泣き出した場合、親は戸惑う。子供を優しく宥めることができず、子供を叩いてしまった親も少なくないだろう。親業は大変だ。

子供の養育で葛藤している親から、「子供の威厳を傷つけず、顔以外なら叩いてもいいか」と聞かれ、フランシス法王が深く考えずに頷いてしまったことで、「教育の場で子供に物理的制裁は許されるか」という教育界の難問に足を突っ込んでしまったわけだ。

質問されれば、必ず何らかの答えを返そうとするフランシスコ法王の弱点がここでも顔を出し、不必要な困惑を信者たちに与えてしまったわけだ。

そういえば、フランシスコ法王は先月19日、スリランカ、フィリピン訪問後の帰国途上の機内記者会見で、随伴記者団から避妊問題で質問を受けた時、避妊手段を禁止しているカトリック教義を擁護しながらも、「キリスト者はベルトコンベアで大量生産するように、子供を多く産む必要はない。カトリック信者はウサギ(飼いウサギ)のようになる必要はないのだ」と述べ、無責任に子供を産むことに警告を発する発言をした。このニュースが流れると、大家族の信者たちから「われわれはうさぎのように子供を多く産んでいるのではない」といった強い反発の声が上がったことはこのコラム欄でも報告済みだ(「批判を呼ぶ法王の兎のたとえ話」2015年1月22日参考)。

フランシスコ法王が自らの発言で信者たちを困惑させた上記の2件の例の共通点は「家族問題」だ。家族計画と子供の教育問題だ。南米出身の法王にとって、家族問題は“鬼門”となってきた。

ローマ法王の為に少し弁明すると、聖職者の独身制のもとで最高位ローマ法王に上り詰めたフランシスコ法王に具体的な家族問題を尋ねること自体が場違いだ。結婚せず、家庭を築いたことがないローマ法王に家庭内の具体的な問題の解決策を求めても無理だ。ローマ法王はカトリック教義(ドグマ)に基づき原則を繰り返すことはできても、具体的な対応については語れないのだ。せいぜい、幼少時代の家族との昔の思い出があるだけだ。信者たちは法王から原則の確認を取るだけで満足すべきだ。法王は決して全知全能ではないのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年2月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。