中国共産党幹部の「愛人問題」に学ぶ --- 長谷川 良

アゴラ

中国反体制派海外メディア「大紀元」は16日、中国共産党幹部たちの愛人問題を報じた香港「争鳴」誌2月号を紹介していた。同誌によると、中国政府機関で昨年発覚した女性問題は70万件を突破し、うち21万7700件は法廷争いに持ち込まれたという。「当事者の70%は課長クラスの幹部に当たる」という。また、中国共産党機関紙・人民日報傘下の雑誌・人民論壇2010年8月の報道によると、調査・処分を受けた腐敗幹部の95%に「愛人」がいるという。
 


当方には、党員を急減する中国共産党を更に糾弾する意図はない。民主主義、共産主義といった政治体制、思想とは関係なく、「愛の問題」が人間の最大の弱さであることを中国共産党幹部の「愛人問題」が改めて実証している、という事実を読者とともに分かち合いたいだけだ。中国共産党が労働者代表でもなく、公平な社会を建設する政党でないことは賢明な中国国民なら既に知っている。中国共産党幹部たちが愛人を囲っているとして驚く国民は少ないだろう。

韓国は植民地時代の旧日本軍の慰安婦問題で日本を激しく批判し、謝罪を要求し続けてきた。韓国国民の中には、旧日本軍下で多数の韓国女性が性奴隷だったと主張している。

ただし、戦時の慰安婦問題は旧日本軍だけではなく、韓国軍人たちがベトナム戦争下でやはり同じように性犯罪を繰り返してきたことは周知の事実だ。平時の韓国では、性犯罪の発生率が先進諸国で最上位に位置している。戦時、平時の区別なく、韓国社会でも「愛の問題」はやはり克服できない課題として残されているのだ。

世界に12億人の信者を誇るローマ・カトリック教会でも聖職者による未成年者への性的虐待は後を絶たない。聖職者の性犯罪件数は5桁にもなる。加害者は神父から枢機卿までに及ぶ。神の愛を唱え、隣人愛を訴える聖職者もやはり「愛の問題」を克服できずにいる。“聖パウロの嘆き”は教会内の到る所で聞かれる。

このように見ていくと、中国共産党幹部の「愛人問題」、旧日本軍の「慰安婦」、ベトナム戦争時の韓国兵士たちの「性犯罪」、そしてローマ・カトリック教会聖職者の「性的虐待事件」と、政治体制、民族、国家、そして戦時、平時の区別なく、そして最も神聖でなければならないキリスト教会内でも、「愛の問題」は私たちの前に横たわっていることが一目瞭然となる。

安倍晋三首相は18日、参議院本会議に出席し、山下芳生日本共産党参院議員の質問に、「慰安婦問題を政治・外交問題から切り離して対応すべきだ」と述べている。これは日本政府が慰安婦問題で、韓国側に「もう忘れよ」といっているのではないだろう。安倍首相が「愛の問題は人間全てが直面している深刻な問題であり、政治、外交で解決できる問題ではない」と言いたかったとすれば、それは正しい指摘だろう。実際、同首相は「これまでの歴史の中には多くの戦争があり、その中で女性の人権が侵害されてきた」とし「21世紀こそ人権侵害のない世紀にすることが大切であり、日本としても全力を尽くしていく考えだ」(中央日報電子版)と語っているのだ。

韓国メディアによると、朴大統領は慰安婦問題で、「どのように対応していいか分からなくなってきた」と述懐したという。日本側の対応への苛立ちからの発言かもしれないが、慰安婦問題が「国を超えた深刻な問題だ」という認識に到達した結果の告白とすれば、それは正しい告白となる。

人類歴史が始まって以来、性犯罪、淪落の問題は消滅したことがない。この問題を克服できる処方箋を提示できれば、文字通りノーベル賞級の大発見となるだろうが、残念ながらこれまで見つかっていない。われわれが「愛の問題」で取れる姿勢は自省することであり、少なくとも相手を名指しで批判することではないだろう。「愛の問題」で相手を批判できる人はいないのだ。

日韓両国国交正常化50周年目を迎えた今年、両国政府が慰安婦問題を政治・外交問題ではなく、人類の問題として対応していくと宣言すれば、歴史家が後日、「画期的な宣言」として高く評価するだろう。
 
繰り返すが、「愛の問題」は中国共産党幹部、旧日本軍、韓国兵士たち、キリスト教会聖職者だけの問題ではないのだ。ドラマチックに表現するとすれば、私たち一人一人が克服していかなければならない“人類史的な”課題だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年2月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。