2月20日の日経新聞「大機小機」欄に、カトー氏が「経済論議の三不思議」という論考を寄せている。
いわく、最近の経済論議には不思議なことが3つあるとのこと。
一つ目は、アベノミクス第1の矢(金融緩和)に対する異常な低評価、二つは消費増税が景気に悪影響を及ぼしたことに対して「腫れ物に触るように」触れようとしないこと、三つ目は、このように普通の経済学で説明できることがないがしろにされているということだ。
金融緩和の正の効果は否定しながら、緊縮財政の負の効果を否定する昨今の論調にはかなりの無理がある。論壇の不思議が消えるのはいつの日だろうか、と結んでいる。
全く同感である。
実は、消費税の負の影響について、論壇で触れることができないと言う点に関しては、筆者自身にも、若干の経験がある。だいぶ以前の話になるが、ある雑誌からの依頼原稿に、次のような記述を入れたところ、なんと掲載を断られたのである。
しかたがないのでその雑誌への掲載をあきらめ、別の雑誌の原稿にこの記述を使おうとしたところ、またしても、「この部分をカットして欲しい」というダメ出しがあった。両方とも、有力な経済雑誌であったため、本当にびっくりしてしまった。
量的・質的金融緩和を中心とするアベノミクスにより、順調に景気回復・デフレ脱却を進めてきた日本経済であったが、昨年4月の消費税引き上げにより、再び大きな変調に見舞われている。政府は今年度の実質GDP成長率をマイナスと見込んでいるが、実際にそうなれば、これは外発的ショック(石油ショック、アジア金融危機、リーマンショック等)由来のものではなく、政府自らの内発的ショックによってもたらされた戦後初めてのマイナス成長となる。税収の高い所得弾力性を利用した財政再建も進められず、まさに人災としか呼びようのない「大失策」と言える。
こうした中、衆院解散という安倍首相の決断により、今年10月に予定されていた消費税の再引き上げが回避されたことは、誠に不幸中の幸いであった。財務省の根回しによって政官業・マスコミに張り巡らされていた「消費増税コンセンサス」であったが、その包囲網を突破した安倍首相・官邸の政治手腕には高い評価が可能である。
今回の教訓として学ぶべきことは、デフレ脱却と増税による財政再建という二兎を同時に追うことは不可能ということだ。アクセルとブレーキを同時に踏む行為は実に無益である。まずは、デフレ脱却をしっかり実現した後に、本格的な財政再建に取り組むべきだ。名目成長率が高まれば、税収増によって財政が大幅に改善するボーナスが見込める。ここしばらくは、アベノミクスに集中すべき局面だ。
編集部より:この記事は「学習院大学教授・鈴木亘のブログ(社会保障改革の経済学)」2015年2月21日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった鈴木氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は学習院大学教授・鈴木亘のブログ(社会保障改革の経済学)をご覧ください。