イエレン議会証言

小幡 績

利上げの時期の示唆が見られなかった、6月利上げは遠のき、9月の可能性を市場は56%の確率で織り込んだ、などの報道が踊っているが、それらを全く無視して、イエレン自身の言葉に直接耳を傾けるべきだ。

そこには、はるかにリッチな情報が溢れており、そこにしか真実はない。

他人の解釈は無視する。これが、学問的にも、現実においても、最初に取るべき態度で、自分の感性を使った後で、他人の意見、先人の知恵に耳を傾けるべきだ。

となると、この記事も読んではいけないことになるが、まずはこれを

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一番重要なのは、彼女は手の内をすべて公開していることだ。

これは、識者たちの解釈の正反対である。彼らは、利上げのタイミングに対して示唆がなかった、ということに終始しているが、彼女は、そんなことよりも重要なことをすべて語っている。

最も重要なことは、彼女は、すべてを伝えたかった、ということだ。

つまり、今後のFEDの金融政策の正常化プロセスをすべての人々と共有したい、ということだ。サプライズはない。それが一番重要だと思っている、ということだ。

これは、黒田日銀と全く異なる。戦略的に動き、市場と世間にサプライズを与える。それで政策効果を最大限発揮しよう、ということだ。

バーナンキもそういうところがあった。

なぜ、このような演出をするかというと、第一にかっこいいからである。政策決定権を持つ側のパワーを最大限見せつけて、爽快だからである。

第二には、その方が効果が大きい場合がある、ということだ。黒田日銀の2013年の異次元緩和は、その効果を存分に発揮した。驚かすことで、悲観的だったこれまでの市場マインドを動かそうとしたのであり、アベノミクスで動き始めていたマインドは決定的に、加速度的に動いた。だから、大成功だった。

一方、2014年10月末の追加緩和は、これが裏目に出た。もはや、サプライズは必要なく、市場はいい状態であったので、むしろ、安定させる政策、普通の政策、戦略の方がよかったのである。

負け戦をひっくり返すには、サプライズしかない。流れが動き始めているときに、たたみかけるには、サプライズがいいこともある。しかし、流れが良くなったら、流れを変えてはいけない。また、上手く流れが良くなった後、その勢いがなくなり、流れが悪くなり始めているときに、無理に動けば、ますます流れは悪くなる。これが、今の日銀であり、流れが良くなっているのが、米国市場であり、米国FEDだ。実は、日本経済は流れは悪くなっておらず、動く必要はないのだ。

さて、FEDのイエレンに話を戻すと、イエレンは、すべて手の内を明かした。どのように、正常化を進めるかを示した。利上げをサプライズにしない、淡々と、しかし、誠実に、そして、みんなで一体となって、正常化を進める、という信念に溢れたものになっている。

具体的に言うと、まず、フォワードガイダンスを変更する。これが最初に起きる、と言っている。しかし、変更したからと言って、すぐに、2,3回の会合の内に必ず利上げをする、ということを意味しない。それは、経済の状況次第で、毎回、経済をよく見て決める。

次に、利上げが先であり、バランスシートの調整を急激に行うことはしない、と言っている。量的緩和とは、FEDの言い方では、資産買い入れプログラムであり、この変更により、正常化を進めるのではなく、主に、金利の引き上げにより正常化を進める、とはっきり宣言している。これはものすごく重要なことだ。

さらに、資産買い入れプログラムの縮小は、いわゆる期落ちで行う、つまり、満期が来たもの、あるいは利子が入り現金化された部分、この再投資を行わないことによって進める、と言っている。これは、十分に縮小過程が,予想できるように、その規模の予測がコンセンサスが簡単に得られ、誰にでもよそくできるようにするために、と言っている。素晴らしい。

さらに、必要以上の資産は持たない、持つとしても米国債だけだ、とはっきり言っている。MBSは落とす、と言っているのだ。

その上で、金利の引き上げは、十分に経済状況を踏まえて、毎回のFOMCで経済状況をよく見て、柔軟に、事前に決めずに、最適な判断を、そのとき、そのときで行う、と言っている。

これだけ明確に言っているのに、利上げの時期の示唆がない、というコメント、分析とはどういうことか。明日上げますよ、6月に上げますよ、6月には上げません、ということを期待したのか。そんなことを言うことはあり得ない。

素晴らしい議会証言だと思うし、これ以上、明快な方針はない。そのままだ。経済の状況をよく見て決める。そのように柔軟な状況になる前に、フォワードガイダンスの表現を変えますよ。変えた後は、状況次第で上げていきます。ただし、そのときの経済を踏まえて。

明快すぎるまでに明快だ。

最後に、正常化、normalizationという言葉にも注目して欲しい。これは今に始まったことではないが、これまでの金融緩和、資産買い入れプログラムは異常なことで、経済が順調に戻れば、ただちに元に戻す、例外的な緩和だ、だからインフレターゲット2%に届かなくても関係ない、ということである。これも明快だ。

日銀も、現在の政策が異常であることを認識しているはずだが、政治サイド、市場サイドにそれがない。FEDに続いて、明快で、サプライズのない、金融政策、あるいは、そういう考え方へ、考え方、スタンスだけでも,先に正常化するべきだ。