常磐道の全線開通に関連する放射線被曝について

青木 祐太

常磐道の全線開通に関して、常磐道の一部で測定されている線量率(単位時間あたりの放射線量)5.5μSv/hourを年間あたりに換算すると48mSv/yearとなるのでとんでもないという批判が起きている。だが、線量率の高い帰宅困難区域内にインターチェンジやパーキングエリア、サービスエリア等は存在しないので、開通区間を利用したからといって、高線量域中に1年中ずっととどまるわけではない。福島県を常磐道で縦貫するにはどんなに長めに見積もっても3時間もあれば充分だろう。仮に福島県全域が5.5μSv/hourという高い線量率だったとしても、福島県を通過する間に被曝する積算線量は16.5μSv、往復でも33.0μSvとなる。もちろん、5.5μSv/hourという高い線量率が測定されているエリアは福島県全域にまたがっているわけではなく、福島第一原発が所在する大熊町・双葉町近辺の地域に限られるので、実際には通過中の積算線量はこの数十分の一程度になるはずだ(報道によれば、新たに開通した常磐富岡ー浪江IC間の14.3kmを制限速度の70km/hourで走行した場合、積算の被曝線量は自動車で0.20μSv、自動二輪車で0.24μSvとのことである)。

一方、放射線医学総合研究所(放医研)の資料によると、東京-ニューヨークを国際線の定期旅客機で往復すれば、およそ100μSvの被曝を受ける。多少、常磐道の区間内に線量率が高いエリアがあるとしても、通過時間が短いのだから、航空機で国際線を利用するのと比べれば積算の被曝線量ははるかに小さい。したがって単に通過するだけの常磐道の利用者にとっては、海外にでかける旅行者のフライト中の被曝線量に比べれば、通過中の被曝線量は小さいはずだ(世界中の任意の都市間のフライト中の被曝線量は、こちらで簡単に計算できる)。一方で、この高速道路上に長時間とどまることになる作業者に対しては、防護服着用を徹底させる、ある程度以上の時間の作業は禁止するなどの配慮が必要であろう(日本における放射線防護規則である「電離放射線障害防止規則」によれば、放射線業務従事者の許容被曝線量は、1年間あたりでは最大50mSv、かつ、5年間で最大100mSvとされている。つまり、年によっては年間50mSvまで認めるが、その年を含む5年間のトータルでは100mSvを超えてはならない、ということ)。

通過中の積算線量ではなく、線量率そのものの大きさが問題なのではないかと思う人もいるかもしれない。それでは、積算線量ではなく線量率そのものの大きさで比較してみよう。「原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書:放射線の線源と影響」の付属書Bによると、巡航飛行中(高度9~12km)の国際線の航空機内での実効線量率は、緯度や太陽の活動状態、さらに日中か夜間かによって変動するが、中緯度地域上空では5~8μSv/hour、赤道域では2~4μSv/hourとなる(詳しくは、こちらの資料を参照されたい)。したがって、常磐道の一部区間で測定されている5.5μSv/hourという値は、国際線フライトと比較して取り立てて大きいというわけではない。常磐道の新規開通区間を利用する際には、そのあたりを考慮に入れて、どの程度利用するかを各々で冷静に判断すればよい。

もうあと1週間ほどで、福島第一原発事故の発生から4年の年月が経つことになる。被災地域の1日でも早い復興に向けて、冷静で科学的な判断がなされることを望むばかりだ。

青木祐太
東京工業大学