「英語教育詐欺大国」日本

本山 勝寛

日本ほど、英語学習に関する本が出回り、高額な英語教材や英会話スクールにお金をかける国はない。にもかかわらず、日本人ほど、英語ができない国民はいない。

アメリカの大学留学などに利用される英語試験TOEFLの平均スコアを受験者の出身国別平均値(2013年)でみると、日本は120点満点中70点と、世界各国と比べて最低レベルだ。他のアジアの主要国のスコアは以下の通り。受験者母数の違いを考慮したとしても、日本が低すぎることは事実だ。

シンガポール 98点
インド    91点
パキスタン  90点
フィリピン  89点
マレーシア  89点
韓国     85点
スリランカ  85点
バングラデシュ84点
ネパール   83点
インドネシア 82点
北朝鮮    82点
ミャンマー  79点
ベトナム   78点
中国     77点
タイ     76点
モンゴル   70点
日本     70点


私は仕事で世界各国を回っているが、公務員やビジネスマンといったエリート層だけでなく、タクシーの運転手からホテルやお店の人たちまで、発展途上国の一般層の人たちでも、英語を話せる人たちはたくさんいる。一方、日本では、私自身もそうだったのだが、東京大学出身者やキャリア官僚、マスコミといったエリート層でも英語が話せない人の方が多い。

それもそのはずだ。まずは、日本では、英語の先生が英語ができない。2007年度の文部科学省の調査によると、英検準1級以上、TOEIC730点以上、TOEFL(PBT)550点(TOEFLiBTで80点相当)以上を取得している英語教員の割合は、高校で50.6%、中学ではわずか26.6%だという。

TOEIC730点、TOEFL80点といえば、「英語を教える」というよりも、最低限ついていけるかどうかというスコアだが、その基準ですら、中学の英語教師でわずか4人に1人しか達成できていないのだ。これでは、英語を教えるどころか、理解することすらおぼつかない。考えてみていただきたい。英語の先生の4人に3人は、ほとんど英語が理解できない。4人に1人の少しくらいましな先生ですら、あやしいところだ。英語を教えるというレベルにある先生はほぼ皆無と言ってよいだろう。まさに、驚愕の事実だ。

こんな英語ができない先生に、英語を教えられているのだから、日本人がいつまでも英語ができないし、さらには英語が嫌いになるのは当たり前の話だろう。英語コンプレックスが英語コンプレックスを生み、多額の国費と私費を投入して、大量の英語嫌いを輩出しているのが今の日本の現状なのだ。はっきり言えば、国を挙げた「英語教育詐欺」と言ってよいだろう。

日本で一番と言われる東大だって同じようなもので、私は東大で英語の授業を受けてもさっぱりできるようにはならなかった。そして、英語嫌いが加速させられた。私の出来が悪かったのかもしれないが、東大出身者ですら大半は英語ができないのは、先にも書いたとおりだ。

では、日本人はどうがんばっても英語ができないのか。決してそんなことはない。学校や大学で教えられる英語教育から一歩脱して、自分の独学勉強法を英語にも当てはめて実践してみたところ、もちろん苦労はしたことは事実だが、1年間でTOEFLのスコアは急激に上昇し、全く聞き取れなかった英語が理解できるようになり、ハーバード大学院にも合格し、卒業することができた。そして、今では世界各国を回って英語を使って仕事をし、国際会議を取り仕切る立場になっている。

英語が使えるようになったからこそ、ビジネスチャンスが圧倒的に広がり、より広い世界を知ることができ、バラエティに富んだ多くの人たちと出会い、人生がより楽しくなった。これがもし英語嫌いのままであれば、見えているもの、経験できることが、全く違っていただろう。

もちろん、「英語がペラペラ」というわけにはいかないし、ネイティブのような英語は使えないが、英語が通じ、目的が達成できれば、それでいいんだと開き直っている。実は、その開き直りこそが、実のある英語学習のスタートになる。「英語がネイティブのようにペラペラになりたい」という曖昧な幻想を捨て、目的に合わせた達成可能な目標を設定することがきわめて重要なのだ。そして、その目標に合わせて、効果的な戦略を立て、継続できる仕組みをつくって、効率的な学習を楽しく、たくさん実践することが成功の秘訣だ。

当たり前のことだが、その当たり前ができていないのが、日本の「英語教育詐欺」の現状なのだ。私もその被害者の一人でもあった。日本人はまず、ネイティヴのような「本当の英語」でなければ使ってはいけないという強迫観念に捕らわれ過ぎている。また、日本の英語教育には、実際に使えるようになるための戦略が全くない。そして、英語を和訳して解釈するのではなく、英語を英語としてダイレクトに触れて、使う絶対的な時間数が足りない。さらには、難しくてつまらない教材ばかりで、せっかくの楽しいコンテンツを活用できていない。

これらを一つ一つ克服すれば、日本人でも英語はある程度使えるようになる。それも1年あれば可能だ。ということで、日本の「英語教育詐欺の被害者」であり、大の英語嫌いで苦手だった私が、苦労しながらも独学で英語が使えるようになったノウハウを、下記の『16倍速英語勉強法』という一冊の本にまとめてみた。1年間で英語学習の目標を確実に達成するための具体的な方法を、「英語脳」「戦略」「時間」「効率」という4つの要素に分けて整理した。ぜひ一読のうえ、実践してみていただきたい。それが、日本の「英語教育詐欺」による税金の無駄使いをムダに終わらせないための一方策となれば幸いだ。(『16倍速英語勉強法』まえがきより一部抜粋)

本山勝寛
朝日新聞出版
2015-03-06


関連記事
世界の4人に1人は英語が使え、その大半がネイティブではない
世界に本当の英語なんてない

学びのエバンジェリスト
本山勝寛

「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。