「18歳選挙権」を日本の「民主主義2.0」へのスタートに

高橋 亮平

2016年夏の参院選から「18歳選挙権」実現へ

政治とカネの問題など、政局によって遅れてしまっていたが、ようやく昨日3月5日に「18歳選挙権」実現へ、公選法改正法案が自民、民主、維新、公明、次世代、生活の与野党6党などの共同で衆議院に再提出された。
「18歳選挙権」については、2月6日に行われた、自民、民主、維新、公明など与野党の実務者による「選挙権年齢に関するプロジェクトチーム(PT)」で、改正案の再提出と、今国会で成立させる方針が確認されており、事実上、今議会での成立、2016年夏の参院選からの実施がほぼ確定的になった。
私自身、大学時代の2000年にNPO法人Rightsを立ち上げ、この選挙権年齢の引き下げをライフワークに15年間最前線で活動を行ってきた。
1年前に、2016年参院選からの「18歳選挙権」実施をめざしたキャンペーン「Act18」を仕掛けた際には、関係者すら「現実的には難しいのではないか」と言っていたものがようやく現実のものになった事は感慨深いものがある。


「18歳選挙権」で、「世代間格差」は解消するか?

ここのところ国内はもちろん海外メディアなどからも取材を頻繁に受ける。
その際、「18歳選挙権」の実現によって何が変わるのかと必ず聞かれる。
2008年に「ワカモノ・マニフェスト」<http://www.youthpolicy.jp/>を立ち上げるなど、生涯で受ける受益と負担が世代によって1億円以上の差になる「世代間格差」の問題をこの国の抱える大きな課題として、社会に提起してきた。
ワカモノ・マニフェストについては、衆院選の際に書いた以下のコラム『各政党マニフェスト若者度評価。若者は本気で「ワカモノ・マニフェスト」をぶつけなければいけない』<http://blog.livedoor.jp/ryohey7654/archives/52002168.html>なども見てもらえればと思う。
だが、こうした「世代間格差」やその背景にある高齢者の声ばかりを過度に反映する「シルバー・デモクラシー」の構造は、「18歳選挙権」を実現すれば、それで全て解決するという単純なものではない。

「18歳選挙権」は、日本の民主主義を進化させる

私がこの選挙権年齢の引き下げの問題を象徴として取り上げ、15年間求めてきたのは、この選挙権年齢の引き下げが、若者を取り巻く参画の問題や、若者に関わる政策を大きく変える針の一穴になると考えているからだ。
「18歳選挙権」の実現によって、18歳・19歳、約240万人が有権者として新たに増える事になるが、この事の効果は、単純に物理的な若者の票数が増えるという事ではない。この事により、政治や政治家、政党などが若者に目を向け様とする事のキッカケになる事の方が大きな意味がある様に思う。
「18歳選挙権」の実現は、決して GOALではなく、これを「START」にしていく事が重要だ。
1つ目は、さらなる選挙権の拡大、被選挙権年齢の問題、さらには選挙制度そのものも含めて間接参画の制度改正といった課題だ。2つ目は、これからさらに注目も集まってくるであろう政治教育の環境整備。3つ目は、ヨーロッパなどで進んでいる直接参画の問題などもある。
むしろ今回の改正をキッカケにこれまで我々が提言してきた様々な提案が、具体的な解決策として検討が進んでいくのでいく事を期待したい。

選挙権は制限選挙から権利としてその対象は拡大し続けてきた

今回の「18歳選挙権」の実現は、女性参政権と同時以来、日本では70年ぶりの選挙権の拡大になる。
日本に限られた事ではないが、選挙権は、資産・性別・年齢などで制限されていた。有権者の範囲は徐々に広がってきており、最後に残った制限が年齢だと言える。
振り返れば、日本の選挙権は1889年に25歳以上の男性で15円以上の納税要件が課せられた制限選挙として始まり、1900年には10円以上、1919年には3円以上と納税要件は段階的に緩和され、ようやく1925年には25歳以上のすべての男性に選挙権が保障された。しかしこの際に選挙権は女性には保障されていなかった。
選挙権年齢の引き下げは1945年に、女性選挙権と共に選挙権年齢も25歳から20歳へと引き下げられ20歳以上の男女による普通選挙となった。
こうした選挙権の拡大は、義務を果たした者が得るという側面のものから、幅広く権利として保障するものへとその位置付けが既に変わってきている事を示しており、2013年には、知的・精神障害者や認知症の人を中心に成年後見人が付くと選挙権を自動的に失うとした公職選挙法が改正され、被成年後見人の選挙権が回復し、投票できる事にもなっている。

欧州では既に「16歳選挙権」への流れ

日本では当たり前だと思われてきた20歳からの選挙権だが、世界ではむしろ異例中の異例だ。世界191の国と地域で見ると、その88.0%が18歳までに選挙権を保障している。先進国と言われるOECD加盟34ヵ国で見ると18歳までに認めていないのは日本と韓国だけ。サミット参加国では日本以外のすべての国が18歳で選挙権を保障しているのだ。

図表1: 世界の選挙権年齢<年齢別国数>

ヨーロッパの若者参画先進国では、さらに「16歳選挙権」へと引き下げの動きが進む。
オーストリアが2007年に連邦憲法及び選挙法を改正し、国政選挙を含む全ての選挙権を16歳に引き下げたほか、ノルウェーやドイツ、スイスでは、特定の州や市町村選挙で選挙権を16歳への引き下げを実施している。
ドイツでは国政選挙は18歳からだが、州レベルでは16歳選挙権が実現しているところがあり、ブレーメン州が2009年に引き下げ2011年に選挙を実施、ブランデンブルグ州が2011年に引き下げ2014年に実施、ハンブルグ州が2013年に引き下げ2015年に選挙を実施予定と拡大している。また、英国やスウェーデン、デンマークでも選挙権16歳への引き下げの動きが進行している。
日本においては、ようやく世界から1周遅れで「18歳選挙権」実現の直前まで来たが、この実現が必ずしもゴールではない。世界がまた「16歳選挙権」へと動き始めてきている中で、この国も選挙権をどの年齢にまで広げていくかというさらなる議論が必要ではないか。
とくに、ドイツやノルウェー、スイスの様に、地方選挙権を専攻して、特区などで引き下げていく、さらには自治体ごとに地方選挙権年齢については定められる様にする法改正などの検討もしていくべきではないかと考える。

模擬選挙の結果を見れば、若者にも大人と同等の政治判断能力はある

図表2: 模擬選挙と実際の選挙の政党別得票数<2014衆院選>

若者の政治判断能力についても触れておきたい。
世界中で行われている政治教育プログラムの一つに「模擬選挙」がある。米国では約700万人、ドイツでも6万人以上の未来の有権者が国政選挙の際にこの「模擬選挙」に参加している。
国内でも昨年末に行われた衆院選では8,117人もの未来の有権者が参加した。
この「模擬選挙」の結果と実際の選挙結果とを比較すると、「模擬選挙」は実際の選挙より事前に行われるにも関わらず、極めて似た様な結果を示す。こうした結果は、必ずしも今回の選挙に限った結果ではなく、どの国政選挙においてもその選挙の傾向を反映したものになっている。
こうした状況から考えれば、未成年者においても実際の有権者と同様の政治判断能力はあると捉えられるのではないだろうか。
世界との比較の中で、必ずしも日本の若者だけが劣っているという事はない。
詳しくは、『18歳選挙権を導入していたらもっと自民党が勝っていたという衝撃データ』<http://blog.livedoor.jp/ryohey7654/archives/52004781.html>も参照頂ければと思う。

「18歳選挙権」を若者参画先進国に向けてのスタートに

冒頭でも、選挙権のさらなる拡大や被選挙権年齢の引き下げなど関節参画の制度改正、政治教育の環境整備、さらにはICTを活用したE-Participation等も含めた直接参画の仕組みの整備と、この国の民主主義を進化させていくための課題は山の様にある。
タイトルにも書いたが、「18歳選挙権」の導入を、単に選挙権年齢の2歳引き下げという物理的な効果だけでなく、この国の民主主義の質を高め「民主主義2.0」ともいうべき新たなステージへと導くための大きなきっかけにしてもらいたいと思うのだ。
今回は、文字数の都合もあり、具体的な事まで書ききれないが、こうした課題については、今年の成人式にもブログ『「世界で最も若者の声を聞かない国」も来年からは新成人だけでなく18歳から選挙権の新時代に』<http://blog.livedoor.jp/ryohey7654/archives/52008372.html>を書いた。また、若者参画の先進国であるドイツの先進事例なども『若者政策先進国ドイツの先進事例から考える「日本が取り組むべき若者政策」』<http://blog.livedoor.jp/ryohey7654/archives/52003882.html>でも紹介したが、このコラムでもこうした「18歳選挙権」後の政策提言等についても今後書いていきたいと思う。

参考図表: 世界の選挙権・被選挙権・成人年齢一覧