中間層の成長なくして世界経済の歯車は回らない

岡本 裕明

中国の経済回復テンポが十分ではありません。今年度の経済成長率見込みを7.0%まで引き下げたもののその達成にも疑問符が付きます。1-2月の鉱工業生産は昨年12月の7.9%から6.8%増に減速、春節があったにもかかわらず小売売上高も11.9%から10.7%増に「低迷」しています。


中国の経済規模と一人当たりGDP水準からするともっと高い経済成長率を維持しないと先進国レベルに追い付けなくなりますが、成長率の漸減状態が続けばいわゆるキャッチアップは十年単位で先送りされることになります。

その傾向をもっと端的に表しているのが韓国で一時期高い成長率を見せ、経済水準からは中進国の上位に位置していましたがもはやその当時の勢いは全くなく、長期的に韓国が陥る低成長のジレンマから脱出できる見込みは今のところ見つかりません。

アメリカを見てみましょう。先進国で唯一、「好調」を維持するアメリカは今、正に利上げに踏み切るタイミングで盛り上がっています。来週のFOMCでそのステートメントからpatient (忍耐強く)という言葉が取り除かれるかどうかが市場関係者の注目点になっています。これが無くなればいよいよ6月の利上げ開始が射程距離に入ってくるというわけです。

アメリカ経済は失業率だけ見れば確かに改善は進んでますが、平均賃金の上昇率は年間2.0%程度にとどまり、インフレ率も目標に対して届かない状態です。つまり、アメリカで本当に景気が良いのは誰だろう、というのが素朴な疑問であるのです。

好調な自動車の売れ行きも金利上昇が近いことと需要の先食いによりそろそろ息切れしそうな気がします。売れているのはトラックばかりで乗用車は今年に入って大幅ダウンとなっています。

カナダの住宅指標が一気に悪化しました。2月の住宅着工件数は前月比16.4%減、前年同月比でみると18.8%減と厳しい下落となっています。その下落を主導したのは石油の出るアルバータ州ではなく、経済中心の州、オンタリオ州であることに私は注目しています。専門家の見方はこの弱い住宅指標は少なくとも今後1年近くは続くのではないかとみています。

世界で本当に儲かっているのは誰なのか、と考えると一部の経営者を別にすると勝者は実はコーポレーションでそこで働く従業員は報われないのではないかという気がしています。経営管理は様々な分野に及びます。会社が永続的に成長するという「会社生存至上主義」に立てば会社の財務指標がよろしく、売り上げ、利益が伴いROEやPERなどアナリストが大好きな指標も満足させるためには企業の健康状態を万全に整え、フィットさせ、健康増進を図り、栄養をたくさん摂取しなくてはなりません。

その結果の一つが企業に積みあがった現金でありますが、モノ言う株主は「配当を増やせ」「投資しろ」というわけです。本来であれば従業員の給与やボーナスを増やすなどのバランスが重要だと思いますが、上場し、IRし、経営陣の能力を問われないようにするには会社をいかに美しく見せるかにすべてのエネルギーを集中するともいえるのです。

「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる(トリクルダウンする)」ことをどう捉えるかは皆さんの自由ですが、私の最大の疑問はこの場合の富める者があなたの勤める会社である場合に本当におこぼれが頂戴できるのか、ということです。経営者なら給与に回すより次の投資に資金を確保するのが普通でしょう。利益処分案で配当性向を5割とか7割、場合により10割にする会社もありますが、それは株主のメリットであり、従業員の汗や苦労が混じっています。

中国でも韓国でもアメリカでももちろん日本でも起きていることはIRと物申す株主により会社経営はより高い効率化を求められ、従業員には心地よいクッションは与えらえないということかもしれません。

それは中間層の育成に大きな歪が生じ、給与所得が伸び悩み、消費が改善しないということになります。勿論、企業の投資により新たなる雇用が生まれることも確かにありますが、今は新たに工場を作るより既存の企業買収という手段を用いることも多く、買収資金は雇用を増やすというより経営の更なる効率化が進むともいえます。

日本型経営はその点、1億総中流の背景と経営者と従業員の格差が小さいことを特徴としてきました。だからこそ、ここまでの成長ができたわけですが、日本企業が企業経営の国際化が進んだ90年代あたりからこのモデルが崩れた可能性はあります。専門家の声も聞いてみたいと思います。

新興国の成長があるポイントで止まるという経済モデルが起こりつつあるのならその早急なる解明が必要でしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 3月12日付より