電波芸人的キャリア戦略を割と真面目に考察する --- 城 繁幸

アゴラ

今週のメルマガの前半部の紹介です。先日、古賀茂明氏が報道ステーションを降板すると報じられ、大きな話題となりました。古賀さんといえば元経産省のエリート官僚で、退職後は大阪市の顧問を務めつつ、報ステなど各種メディアで積極的に情報発信していた人です。分かりやすく論理的な解説で、ポスト池上さんの呼び声もあったほど。いわゆる“脱藩官僚”の花形的存在だった人ですね。


その氏が、地上波ニュースでもっとも影響力が大きいと言われる報道ステーションを降板させられた理由とはいったい何でしょうか?調子に乗って「アイアム ノット アベ」と言って番組に味噌をつけてしまったことが原因でしょうか?確かにそれも一因でしょうが、その背景にはもっとホットで生々しい事情があるというのが筆者の見方です。

テレビや新聞と言った大手メディアに露出すれば、軽く数百万人に名前が売れることになります。それも、一日中PCに張り付いてる社畜やニートではなく、お茶の間でくつろいでいる専業主婦や高齢者といった時間的にも金銭的にも余裕のある層に認識されることになります。はっきりいってwebサイトで何十万pvなんて目じゃないほどのインパクトですね。もちろん知名度が上がるということは、それだけマネタイズもたやすいということです。

普段皆さんが目にしているメディアの裏舞台では、電波の上で生きていくことに血道を上げる電波芸人たちが、華やかなスポットライトの当たる場所を巡って、終わりの無い壮大な戦いを繰り広げているのです。まさに大河ドラマと言ってもいいでしょう。

そういうドラマの力関係を理解すれば、なぜ古賀氏は台頭し、急速に左旋回し、降板させられたのか、意外な構図が見えてくるはずです。もちろん、普段のニュースやワイドショーもより面白く楽しめるようになるでしょう。

電波芸人勢力図

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まず、現在、テレビや新聞と言った大手メディアの舞台でコメンテーターやら何やらとして活躍しているメジャークラスの方々を分類してみましょう。専門性と大衆迎合度という軸を設定すると、彼らは大きく分けて4種類に分類できます。ここでいう専門性とは、経済系の出版社から単著を出したり専門誌に寄稿するくらいのニーズがある人、大衆迎合度というのはポピュリスト的言説のようなものです。

1.これといって芸がない一方、大衆迎合度が高いゾーン

ここは一番の花形スポットであるとともに、一番の激戦区でもあります。誰でもふらっと入ってこられるんだから当然ですよね。ワイドショーやバラエティなのでおなじみの面々が顔をそろえます。

同時に、このゾーンは大衆迎合度の高いゾーンでもあります。「政府の借金は国民の資産」とかなぜか企業や個人の資産までぶっこんだ謎の「日本国のバランスシート」提唱で有名な三橋貴明や、「すべての問題は日銀に通ず」で女性問題評論家から一躍(リフレ派の)経済評論家に躍り出た勝間女史など、視聴者読者の皆さんは痛い思いをしなくてももっと豊かになれますよ的なコメントが売りの方々揃いです。宮崎哲弥、勝谷誠彦なんかもちゃっかりリフレ論に便乗してたりします。

なぜ彼らは大衆迎合的なんでしょうか。それは彼らには特にこれといった芸がないからです。宮崎哲弥とか勝谷誠彦に「高齢者向け社会保障をカットしろ」とか「痛みを伴う改革をとっとと推進しろ」とか言われたら誰だって「あんたに言われたかないよ」と思うでしょう。まして平日昼間にテレビの前に座っている視聴者にウケようと思ったら、そんなこと口が裂けても言えません。というわけで、こうした人々がメディアで食っていこうと思ったら、必然的に大衆迎合的にならざるをえないわけです。

最近のネット上ではバラマキ派とリフレ派が険悪なんですが、マーケティング対象がかぶっていると考えるとわかりやすいですね。

2.専門性を持ちつつ大衆迎合度も高いゾーン

一方、一定の専門性を持ちつつ、それを隠して大衆迎合的な意見に終始し、時にまったく本音とは真逆のことさえ平然と言ってのけるステキな方々もいます。政府の原子力委員会とワイドショーで180度真逆のことを平然と言ってのける武田邦彦、記者に「今日はなんて言えばいいの?」と聞くなど、業界初のオーダーメイドコメントシステムを確立した森永卓郎などが代表です。

よく「モリタクはただのアホだ」という人がいますが、筆者は非常に頭がいい人だと見ていますね。三和総研時代に「仕事出来る奴と出来ない奴が同じ給料なのはおかしい」といってゴリゴリの事業部別業績連動性を導入させた実績のある彼が、本気で社会主義の理念を抱いているとは到底思えないですし、まして“内部留保”が分配可能だなんて露ほども考えちゃいないでしょう。

彼らは別に悪気があって言ってるわけではなく「愚民が見たい夢を見せてやっているだけだ」くらいのスタンスだというのが筆者の見方ですね。

3.専門性はあるが大衆に興味が無いゾーン

それぞれ軸足となる専門性はあるけれども、別にそれでメディアに露出したいとか、まして大衆を喜ばせたいなんてことは毛ほども思っちゃいないグループです。というか、ごく一般的な大学の先生や研究者はここに該当するはずです(正確に言うとこのゾーンは“芸人”ではないですが)。

こういう人たちの中には「一般向けのメディアに露出するとむしろ専門ムラでの評価に障る」と考えている向きが少なからずあり、表舞台に出たがらない人も少なくないですね(筆者は、それはそれで問題だと思いますが)。

本来であれば、このゾーンから適時状況に応じて人材を呼んでしゃべらせれば、1番や2番の人材の出る幕なんてないわけですが、日本のメディアはなぜかこのゾーンの人材をあまり使いたがりません。

4.専門性はないけれども大衆迎合もしないゾーン

最後に、これといった専門性はないけれども大衆迎合的な芸も披露しないストイックな路線の人も少数ですが存在します。というか、筆者の知る限りそれはただ一人、池上彰だけです。見る人を圧倒する知識や経験があるわけでもないのに上からびしっと正論を吐けるのは、ひとえに氏の話術と存在感のたまものですね。これは真似しようとして出来るもんではないです。

とりあえず話は上手いけれども胡散臭いヤツや、ストイックな研究者だけど一般人にはチンプンカンプンな宇宙人タイプが居並ぶ中、バランスの取れた正論を一般人に通る言葉で話せる人材は池上さんくらいです。だから今のところ、池上さんの置き換えがきく人は見当たらないし、当面出てはこないでしょう。

さて、降板させられるまでの古賀茂明氏はどのゾーンに属していたのでしょうか?意外に思われるかもしれませんが、産業政策をぶいぶい言わせていた高度成長期ならいざ知らず、現在の経産省というのはすごくニッチな分野で政策通ではあっても(少なくとも一般視聴者に響くほどマスなレベルでは)幅広い専門性があるとは言い難いです。

実際、氏は震災後にメディア露出を増やす前に即席でエネルギー行政の知識を吸収し、滑り込み的にコメンテーターの椅子に座ったことからも、1番か4番ゾーンの人だというのは明らかでしょう。

【参照】古賀茂明氏がテレビから追放されたのは当たり前の話

では彼はいかにして詳しくもない原発問題について語るようになったかというと、東日本大震災が起きるとその直後にすでに役所を退職していた原子力分野の専門家の同僚に「原子力について教えてくれ、本を書きたいんだ」などとお願いしたことに始まるわけです。

ただし、氏が政策立案のプロフェッショナルであるエリート官僚であることは事実で、わざわざ電波芸人に軸足を置く必要などなかったはず。実際、経産省で左遷された後も公務員制度改革の事務方に抜擢されたり、経産省を追放されてからも大阪府の顧問を務めるなど、その手腕には一定の評価がされているのも事実です。電波上で媚びない正論を述べ続ければ、きっとまわりまわって本業の政策顧問としての評価につながるという正の循環が機能したはず。筆者は氏がポスト池上彰に成れた可能性は十分にあったとみています。

ではなぜ古賀さんは4番ゾーンに定着せず報ステレギュラーから転げ落ちてしまったのでしょうか?実は筆者は、電波芸人のパフォーマンスには専門性や大衆迎合度とは別に「社会や古巣に対するルサンチマン度」という重要な隠れ要素が影響しているとみています。これが高い人は、どんなに専門性が高くてもスポットライトの当たる表舞台から転げ落ちてアングラ世界に転落してしまうケースが多々あります。

そして、このルサンチマン度は、終身雇用型組織に勤める真面目な秀才タイプほど高く蓄積してしまう傾向があります。なぜか?普通のチャラチャラした人間であれば、ルサンチマンがたまる前に転職するか、在職し続けても適当に手を抜いてサボるのでルサンチマンとは無縁な人生を送ります。新橋で夜「会社はぜんぜんわかってねえんだよ」とくだ巻いてるオヤジはたいていこのパターンですね。

でも、真面目な秀才タイプは根が真面目な分、報われなくとも一生懸命に努力し続け、結果的に後戻りできない年齢に到達した時には、高濃度のルサンチマンを脳内に蓄積してしまうわけです。

恐らくは古賀さんも、古巣に対するルサンチマンを高濃度に蓄積してしまった一人でしょう。他に元官僚で古巣に対する怨念から暴走気味の人というと外務省OBの天木、孫崎コンビが真っ先に思い浮かびますが、彼らも元レバノン大使、元イラン大使という主流派からは程遠い微妙な経歴の持ち主で、さぞやルサンチマンを溜めまくっていることでしょう。この点、同じ外務OBでもノンキャリア出身の佐藤優はもともとルサンチマンなんてものとは無縁な分、しっかり2番ゾーンに根を張れているわけです。

以降、
既にあらわれていた氏の変調
メディアと電波芸人の相互依存
勝間和代はいかに群雄割拠の中原を制したか

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2015年3月11日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。