もう一つの2018年問題

小黒 一正

通常、2018年問題という場合、それは「少子化が大学に及ぼす問題」をいう。現在、ほぼ横ばいの18歳人口が2018年頃から減り始め、それに伴い、大学進学者数も2018年の65万人から徐々に減少し、大学進学率が変化しない場合、2031年には48万人にまで減少するという問題である。

しかし、この問題とは別に、もう一つの2018年問題が存在する。それは(アベノミクスに深く関わる)黒田・日銀総裁の任期と安倍首相の自民党総裁任期の終了である。まず、黒田総裁の任期は5年であるから、2013年4月から2018年4月までである。

また、自民党の総裁任期は、現行の党則や総裁公選規程により、連続で2期6年までとなっている。このため、連続で3期9年まで延長可能となるよう、党則等を改正しない限り、安倍首相の自民党総裁任期は2018年年9月までである。


このうち、財政・金融政策の安定性を重視する場合、黒田・日銀総裁の任期の方が重要である。理由は、以前のコラムでも説明したように、量的・質的金融緩和(QQE)による大量の国債購入で(2018年に近い)2019年頃に国債市場が干上がってしまう可能性があるためだ

量的・質的金融緩和(QQE)は元々、痛みを伴う財政・社会保障改革や潜在的成長率を引き上げる構造改革を行うための「時間稼ぎ」の役割しかもたない。

このため、財政改革については、現在、政府・与党を中心に今年6月頃に策定予定の「新たな財政再建計画」を巡って既に攻防が繰り広げられているが、その具体化作業において、政治は相当厳しい選択を迫られる。

というのは、今年2月、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」(以下「中長期試算」という)を公表したが、この試算によると、2017年4月の消費増税(税率8%→10%)や、高成長ケースを前提にしても、20年度の基礎的財政収支(対GDP)は1.6%の赤字となるからだ。

これは、経済成長による税収の自然増のみで、基礎的財政収支を黒字化するのは不可能であり、社会保障改革を含め、歳出削減や追加の増税が不可避であることを示唆する。

その結果、財政再建目標を「より緩やかな指標」(例:債務残高対GDP比)に変更しようとする動きが出てきている。だがこのような動きは、日経ビジネスONLINEの連載コラム「財政再建の目標を巡る攻防」前回のコラムでも説明したように、将来に禍根を残す試みである。

このような状況の中、現在、2020年度の基礎的財政収支(PB)黒字化に向けた「新たな財政再建計画」の防波堤となっているのは、財政を担う麻生財務大臣のほか、もはや黒田・日銀総裁のみであるように見える。

実際、今年2月27日付のロイターでも、黒田総裁は「2020年度の基礎的財政収支(PB)黒字化が第一歩と明言」し、「日銀の量的・質的金融緩和(QQE)を成功させるためには、財政再建への信認が不可欠との黒田総裁の「信念」がありそうだ」旨の記事を掲載している。

なお現在のように、量的・質的金融緩和(QQE)で国債市場が機能不全に陥っていても、市場での国債消化に支障が発生していない背景には、市場で取引を行うプレイヤーが黒田・日銀総裁に一定の信頼感を置いていることが深く関係するはずだ。

このため、日銀総裁の後任が誰になるかも重要だが、仮に2018年4月における黒田総裁の退任でこの構図が壊れると、国債消化や市場が不安定化する可能性も否定できない。

このような事態に陥ることがないよう、今年6月頃に策定予定の「新たな財政再建計画」において、財政再建の道筋をしっかりつける必要がある。

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)