アンジー監督『アンブロークン』は「反日」映画か

アゴラ編集部

ゴールデン・グローブ賞でノミネートがなかったアンジェリーナ・ジョリー監督の映画『アンブロークン(Unbroken)』ですが、アカデミー賞でも撮影賞と音響編集賞、音響調整賞という技術系部門のみでのノミネートに終わっています。興行的には成功、と言われつつ、映画界では意外な低評価です。一方、この映画、日本のネット上ではかなりの「話題」になっている。というのも、内容が太平洋戦争に従軍した米兵が日本軍の捕虜となり、捕虜収容所で虐待を受ける、というもので、これが「反日的」だと煽る人がいるからです。では、米国内で興行的に成功したのは、米国人が「反日的内容」を評価した、というような背景があるんでしょうか。


映画の内容は、ネット上で騒がれているような人肉を喰うという残虐なシーンもなく、おとなしめな脚本で実際に観た人は「拍子抜け」したそうです。当方、トレーラーなどを観たり映画評などを読んだ限りでは、この中で描かれている日本兵の「残虐」ぶりは、大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』やスティーブン・スピルバーグ監督の『太陽の帝国』と同程度のもののように思えます。この「前評判」で中国市場でのヒットを期待、という見立てもある。

日本での公開は、こうしたネット上の批判などに過敏に反応した配給会社が二の足を踏でいてまだ未定です。この映画の「公開を阻止しよう」という呼びかけが広まったり、逆に「公開させよう」という署名運動が起きたり、さらに日本兵役を演じたアーティストを「反日」と罵倒したりと、「話題作」に関する議論がネットの枠を超えて活発になりつつあります。

アカデミー賞に代表される「ハリウッド」はユダヤ系と言われ、米国の映画界は特定の民族にフォーカスを当てた『アンブロークン』のような作品を拒絶する傾向にある、と表題の記事は書いています。この作品の主人公は、第二次世界大戦で米国の敵国だったイタリア系であり、日系移民と同様、戦時中にイタリア系やドイツ系が市民権を奪われた、という過去がある。作品中に出てくる人間は「枢軸国側ばかり」というわけです。しかし『アメリカン・スナイパー』の主人公も実はイタリア系というわけで、作品の「時代背景」が評価の違いに現れているのでしょうか。

当方は先日、クリント・イーストウッド監督の『アメリカン・スナイパー』を観てきました。こちらはアカデミー賞の作品賞や主演男優賞など計6部門にノミネートされています。観客は総じて、木訥というか単純というか、『アンブロークン』のような主人公が苦難を乗り越えるストーリーに弱い。ただ、片方だけしか観てないのでハッキリとは言えませんが、アメリカ人もベトナム戦争やイラク戦争などの経験を経て、単に戦争をテーマにしたドラマでは感動しなくなっているようです。日本のネット民がこの映画を「反日」と決めつける態度と、この映画が米国内で興行的に成功した理由には微妙な違いがあるのかもしれません。

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映画『Unbroken』のトレーラーより。米軍が第二次世界大戦中に使用した4発爆撃機B24のFXはけっこう秀逸。主人公はこの機に搭乗し、日本の戦闘機に撃墜される。

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アゴラ編集部:石田 雅彦