アジアでは、オフィスビルを建築する際に風水を考慮することが少なからずある。
風水が適切ならば――つまり、建物の配置と方位が正しければ――運気が上がり、商売が繁盛するというわけだ。
最近は、「風水ライト版」ともいうべきものが西洋にも輸出され始めた。雑誌には、家具、緑、池や噴水などをどのように配置すれば、より自然と調和した生活を送れるのかをアドバイスする記事が掲載されている。
現代ではそのように超常的な印象のある風水――文字通り「風と水」を意味する――だが、古来の迷信の大半にその傾向があるように、元々はあくまでも常識的な慣習に由来している。
昔の集落や町では、淀んだ空気や水は命に関わるさまざまな病気の原因となった。水や空気が滞りなく流れる健康的な場所に家を構えられるかどうかが、文字どおり生死を分けたのだ。
風水の主眼は、障害物を取り除くことにある。障害物は悪いエネルギーを生むからだ。この考え方に基づいて、僕は良いオフィス環境を「光、空気、人が自由に流れるオープンな環境」と定義したい。
実は、日本の良き伝統――「武士道(サムライ・ウェイ)」「トヨタウェイ」など――にならい、僕はグロービスのオフィスのあるべき姿を「オフィス・ウェイ」という文書にまとめた。
この「オフィス・ウェイ」では、グロービスのオフィスに次の要素を組み込むことを義務付けている。
・シンプルで分かり易いレイアウト(人が自由に流れるように)
・ガラス(光が自由に流れるように)
・緑、木目(自然と調和するように)
・少ない色数(シンプルで伝統的な和のデザイン)
僕の考え方は風水を基本にしているが、もっと現代的な発想からも影響を受けている。
例えば、25年前にハーバード・ビジネス・スクールで読んだあるケースからは多大な影響を受けた。そのケースで取り上げられた新興企業は、急成長を遂げていた。ただし、フロアを1つから2つに増やすまでは。
2つのフロアに分かれるという単純な物理的変化によって、たちまちタコツボ思考が生まれたのである。「全社一丸」の姿勢が「フロア対フロア」の姿勢に取って代わり、この会社はとたんに失速したのだった。
この会社の例と対照をなすのが、金融情報大手のブルームバーグの例だ。ブルームバーグでは、地位の高低にかかわらず、誰も個室を持たない。パーティションも一切なく、全員がオープンな環境で仕事をしている。さらに、他のフロアにいる同僚に気軽に会いに行けるように、内階段も設けられている(このアイデアはグロービスでも採用した)。ブルームバーグの主眼も、障害物を取り除くことにあるのだ。
僕は昨年、米国ニュージャージー州ウエストオレンジにあるトーマス・エジソン国立歴史公園を訪ねた。エジソンと彼の率いるチームが映画や電池といった技術を生み出した、広々として仕切りのないオープンな研究室。そこに、風水的な考え方があることを感じた。エジソンもまた、光、空気、人の自由な流れが革新的な思考を促すことを直感的に理解していたようだ。
結局のところ、創造性とは、ある物理的な場所で人々が自由に交流してこそ発揮されるものだ。人が同じ場所に集まるのは有意義なことである。同じ空間を共有することで、同じエネルギーを共有できる。口頭で直接伝えられるアイデアには、多大な影響力がある。面と向かってやり取りすることは、アイデアを共有・創出し、ワクワク感を生み出し、モチベーションを高めるための最善の方法なのだ。
良くできたオフィスとは、モチベーションを高め、ワクワク感を生み出し、インスピレーションを与える場所のことをいう。僕のこの考え方は、自分の会社を立ち上げて以来ずっと変わらない。
ずばり言えば、「風水オフィス」を作れるかどうかが、あなたの会社の生死を分けることになる。
あなたの意見を聞かせてほしい。
※この記事は、2015年3月11日にLinkedInに寄稿した英文を和訳したものです。
編集部より:この記事は堀義人氏のブログ「起業家の冒言/風景」2015年3月23日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「起業家の冒言/風景」をご覧ください。