短時間で働くパート・アルバイトの場合、被保険者として社会保険に加入できるかは、通常の労働者の労働時間と比べて4分の3以上あるかどうかが基準になっています。このいわゆる「4分の3ルール」は1980年に、内かんと呼ばれる行政内で通達された書簡に記されていたものであって法的な効力はありません。
しかし、その法的効力の怪しさにかかわらず、多くの事業所や年金機構等の実務の場でこの「4分の3ルール」は活用されています。
例えば、これまで通常労働者の4分の3未満の労働時間だったので社会保険に加入していなくて、労働時間が4分の3以上になった場合、労働者本人の意思にかかわらず、社会保険に加入させる必要があり、加入させないままにして社保の調査にでも入られれば、最大2年期間をさかのぼって加入させていなかった期間の保険料を支払った上で加入させれられるのがオチとなるわけです。(中小企業からすると社会保険料を2年まとめて、というのは額としてとても大きい)
さて、もともとの労働時間が4分の3未満だった労働者が4分の3を超えたら社会保険に加入する必要があるというのはいいとして、もともと4分の3以上で働いていた労働者の労働時間が4分の3未満になったら、会社はその労働者を社会保険から抜いてもいいかといえば、そういうわけでもありません。
社会保険の被保険者が資格喪失をするときというのは、法律上、以下の4つの場合に限られるからです。
1.死亡したとき
2.退職したとき
3.適用除外に該当したとき
4.事業所が社保の適用事業所でなくなったとき
3の適用除外とは「臨時に使用される者」であったり「日々雇い入れられる者」など、健康保険法第3条1項ただし書きおよび、厚生年金保険法第12条に該当するものを言います。どちらにせよ、労働時間の多寡によって適用除外とされる労働者はいません。
よって、労働時間が4分の3未満になったとしても、その会社で働いている限り社会保険の資格を喪失するわけではない、・・・はずなのですが、日本年金機構の各支部、あるいはそこで働く各々の従業員によっては、4分の3未満になった時点で社保の資格を喪失してもよいと言ったりする人もいるようで、ますますややこしい。
一応、内かんなんていう、法律でも何でもない行政内のただの連絡事項を無視するのなら、労働時間にかかわらず社会保険の適用事業所に務める労働者はすべからく社会保険に加入し、また、労働時間が短くなったからといって資格を喪失させる必要もないのですが、ちょうど「4分の3」あたりで働く労働者というのは、労働時間が短いぶん低所得者であることが多く、そもそも労働者のほうが入れてくれるな、という場合も多いのが現状です。なにせ、現在の社会保険料率だと給与の1割以上を社会保険料で持っていかれてしまうわけですからね。
逆を言えば、そういった要望が多いからこそ、通常労働者の4分の3前後の労働時間で働く労働者の社会保険の取得喪失を行政が裁量的に行っていると言えますが、加入はともかく、4分の3未満で喪失させるのは、その良し悪しはともかく完全な越権行為と言わざるをえません。まあ、こうした行政国家的な対応は厚労省管轄の役場では珍しくもなんともないのですが。
来年の10月以降は、従業員数501人以上の事業所に関しては「法律によって」、労働時間が20時間以上の者を社会保険に加入させる義務が発生しますが、中小企業に関しては、今後もはっきり言って意味の分からないこの「4分の3ルール」に振り回されることになりそうです。
川嶋英明(社会保険労務士)