ドイツ機墜落の犠牲者と「復活祭」 --- 長谷川 良

アゴラ

世界の約17億のキリスト信者にとって最も重要なイースター(復活祭)の聖週間が始まった。イエス・キリストが十字架で亡くなった後、3日目に蘇ったことを祝う「復活祭」は移動祝日だ。今年は4月5日だ。キリスト教会ではイエス・キリストの生誕を祝うクリスマスと共に、最大の宗教行事だ。


ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王フランシスコは29日、サン・ピエトロ広場で「シュロの枝の主日」の記念礼拝を行ったが、法王はその中で24日に起きたドイツ・ジャーマン・ウイングス機(エアバスA320、乗客144人、乗員6人)墜落の犠牲者への祈りを捧げた。

墜落で最も多くの犠牲者を出したドイツでは、カトリック教会のケルン大教区ヴォエルキ枢機卿(Rainer Maria Woelki)が同日の記念礼拝の中で、「全能で愛の神がなぜ墜落を防ぐこともせず、静観されていたのか、といった声が信者たちの間にあることを知っている」と述べている。

バチカン放送独語電子版によると、同枢機卿は、「なぜ多くの人々が苦しみ、悲しんでいるのか、神はどうしてそれに答えないのか、という問いかけと同じだ」と指摘、即答を避けながら、「イエスは十字架にかかり、神も同様に苦悩した。イエスが苦悩する人々の同伴者であるという事実は心を慰める」と語っている。その一方、「一人の人間が多くの人間を苦しめた今回の出来事では、訴えや怒りが飛び出すのは理解できる」と語った。

インドネシアの津波、ニューオリオンズのハリケーン・カトリーナ、東日本大震災で多数の人々が犠牲となる度に、欧米キリスト教社会では信者たちの間で「神の不在」への訴えや批判が聞かれる。なぜ、神は愛する人間を無慈悲に犠牲とされるのか、大災害の時、あなたはどこにおられたのか、といった訴えだ。

それに対する教会側の標準的な返答はヴォエルキ枢機卿の発言だろう。神、そしてイエスは苦悩する人間の痛みの同伴者であるという。すなわち、神は苦悩する人間を知らないのではなく、その傍で共に苦悩しているというのだ。苦痛する者にとって独りではないことは大きな慰めだが、神はその全能を駆使して、同伴だけではなく、癒しを施さないのか、といった素朴な質問は依然、残る。

あのマザー・テレサは生前の書簡の中で神の沈黙への苦悩を記述している。病者、貧者の傍にあって同伴してきたテレサもある時は疲れ切って呟かざるを得なくなったのだ。「なぜ」という叫びだ。

ドイツ機墜落の犠牲者の中には新生児もいた。修学のためにスペインにいたドイツの学校児童たちも多数含まれていた。商談のために出かけ、その帰途で悲劇に出会った日本人の犠牲者もいた。27歳の副操縦士とは全く面識もない人々が無慈悲にも犠牲となった。その理由について、キリスト教会はこれまで納得できる説明をしていない。何のために神を信じ、祈るのか、という厳しい質問が飛び出したとしても不思議ではない。

聖週間が始まった。29日は復活祭前の最後の日曜日だった。エルサレム入りしたイエスをシュロの枝で迎えたことから「シュロ枝の主日」と呼ぶ。4月2日は復活祭前の木曜日で、イエスが弟子の足を洗った事から「洗足木曜日」と呼ぶ。イエスは十字架磔刑の前夜、12人の弟子たちと最後の晩餐をもった日だ。4月3日は「聖金曜日」でイエスの磔刑の日であり、「受難日」「受苦日」とも呼ばれる。そして4月4日夜から5日にかけ法王は復活祭記念礼拝を挙行し、サン・ピエトロ大聖堂の場所から広場に集まった信者たちに向かって「Urbi et Orbi」(ウルビ・エト・オルビ)の公式の祝福を行う。今年の復活祭は多くのドイツ国民にとって特別な日かもしれない。

バチカン放送によると、4月17日、独ケルン大聖堂でドイツ機墜落の犠牲者150人を追悼する超教派礼拝が挙行される予定だ。同礼拝にはガウク大統領、メルケル首相のほか、スペイン、フランスなど犠牲者の出身地の代表らも参加するという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年3月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。