本書の第5章に、映画「新幹線大爆破」の話が出てくる。走っている新幹線の列車に爆弾が仕掛けられ、スピードが時速80km以下になると爆発するという話だ。今の日銀の「量的・質的緩和」は、それに近い状態になっているという。いくら緩和してもインフレ率は逆に下がり、黒田総裁が出口戦略を口にした途端に「大爆発」が起こりかねない。
量的緩和は「偽薬」だといわれるが、偽薬には副作用がない。今の量的緩和は麻薬である。いずれやめざるをえないが、その出口で禁断症状が出ることは避けられない。どういう形で金利が上がるかは予測が困難だが、いずれ来る。そのとき日銀が巨額の損失をこうむることも避けられない。
かりに長期金利が2%まで上がると、日銀の保有する国債に約38兆円の評価損が出る。日銀の自己資本は6.5兆円なので、30兆円以上の債務超過になる。中央銀行の債務超過は一般会計から補填できるが、日銀が取りうる方法は次の3つだという:
- 国債の売りオペで政策金利をゼロ以上に誘導する:これは考えられないという。国債の相場が崩れて大混乱になるからだ。
- 準備預金の準備率を引き上げ、超過準備を減らして金利を上げる:これは日銀の損失は減らせるが、市中銀行に対する大規模な課税になる。
- 超過準備への付利:これは日銀が銀行に払う金利を上げるものだが、日銀当座預金は270兆円もあるので、1%上げても日銀に2.7兆円の損失が出る。
いずれにせよ黒田総裁の「インフレ幻想」が空振りに終わった今、残るのはリアルな財政危機である。1000兆円を超える政府債務は、誰かが負担しなければならない。どういう出口戦略を取るかによって負担の分配は大きく変わるので、これは政治との協調が必要な「総力戦」になる。
このほかに財政赤字を減らす方法としては、ゼロ金利のままインフレに誘導する金融抑圧が考えられるが、これは実質金利の高い国への資本逃避が起こるので、国際資本移動の規制が必要になる。これも政治的には困難だ。
安倍首相はプライマリーバランス黒字化の目標をおろして財政再建を先送りしようとしているが、残された時間は多くない。日銀が一時的に肩代わりしている財政負担を最終的にどういう形で誰が負担するのか、政権の決断と国会での議論が必要だ。