世界の目は今、スイスのローザンヌで開催中の国連常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国とイラン間のイラン核協議の行方に注がれている。イランの核兵器製造を恐れるイスラエルは「イランに核兵器製造の余地を与えるいかなる合意にも強く反対する」という立場を繰り返し、牽制してきた。
そのイスラエルは4月1日からもう一つの手ごわい交渉相手を迎える。仇敵のパレスチナだ。パレスチナは国際刑事裁判所(ICC)を舞台にイスラエルの戦争犯罪を国際社会に向かって糾弾する考えだからだ。
パレスチナは4月1日、ICCに正式に加盟した。マムード・アッバス大統領は昨年12月31日、加盟文書に署名し、その文書は今年1月2日、国連事務総長に送付済みだ。
パレスチナがICCに加盟することで、ICCはイスラエルのパレスチナ内での戦争犯罪を捜査できる権限を得る。パレスチナ側はイスラエル軍のガザ地域の戦争ばかりか、国際法(ローマ規定)に禁止された占領地での入植活動も戦争犯罪として、捜査を要請する考えだ。
それに対し、イスラエルや米国、欧州連合(EU)は和平交渉の障害となるとして、加盟には強く反対してきた経緯がある。実際、イスラエルは今年1月、早速、報復処置としてパレスチナ当局が受け取るべき税収、およそ1億2700万ドルの支払いを停止してきた。
パレスチナはICC加盟の際、昨年6月13日以降という追加宣言に署名し、自ら制限をつけたが、本来は2009年1月の宣言に沿って、宣言書を提出すべきだった。なぜならば、09年の宣言では、02年7月以降のパレスチナ地域における犯罪に対するICCの管轄権を受諾していたからだ(アムネスティ2015年1月14日の報道声明)。
一方、イスラエルのネタニヤフ首相は米国が推し進めてきたイスラエルとパレスチナ2国家共存案を、「自分が政権にある限り、絶対に認めない」と強調、パレスチナとの和平交渉で譲歩する意思のないことを主張している。それに対し、ガザ区を拠点とするイスラム原理主義組織「ハマス」の政治指導者ハレド・メシャール氏はBBCとのインタビューの中で、「ネタニヤフ首相の再選で和平への希望は消滅した」と述べている。
パレスチナ側がICCを通じてイスラエル側に政治圧力を行使した場合、和平交渉の見通しは一層、暗くなる。なお、ネタニヤフ首相が率いるイスラエルにとっては、米国が従来通り自国を支援してくれるか分からない点は不安材料だ。
ちなみに、イスラエルの著名な歴史家 Moshe Zimmermann氏は先月31日、「ネタニヤフ首相はイランの脅威を強調することでパレスチナとの和平問題を国民の目から意図的に逸らしている」と分析している。
ウィーンの国連でパレスチナ支援への国連セミナーが先月31日と4月1日の両日、開催された。同セミナーに参加した駐ニューヨークのパレスチナ外交官は、「パレスチナはイスラエルとの和平交渉を2カ国間レベルに留めず、国際レベルに引き上げる」と表明している。国連総会は12年11月29日、パレスチナを「オブザーバー組織」から「オブザーバー国家」に格上げする決議案を採択したが、パレスチナを国家承認している国は既に130カ国を超える。
パレスチナは今後、国家承認国との関係を強化し、パレスチナの国際社会での地位を向上させ、イスラエルへの国際包囲網を構築していく考えだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年4月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。