今週のメルマガの前半部の紹介です。赤旗は近年、大企業攻撃を目的として、NECやIBMといった大企業のリストラ内幕を積極的に取材していて、その生々しさから人気コンテンツとなっています。
でも、数十か月分の割増退職金+再就職斡旋などのいたれりつくせりのサービス付きで管理職が遠まわしに肩たたきする絶望的な“ぬるさ”に、むしろネットでは大企業批判より「うちの中小企業なんて鶴の一声でクビだぞ」「なんでこんなダブルスタンダードが許されるんだ」的な疑問の声が噴出中で、赤旗の意図とは逆に、終身雇用の矛盾に気づく人が増えているようにも見えますね。
さて、そんな愛すべき赤旗によると、またIBMがパワープレーでリストラを展開中のようです。
ぱっと読んだだけで相当雑で、やってはいけないタブーをいくつも犯しているのがわかります。これは裁判になったらきついだろうなというのが正直なところですね。
というわけで、今回は筆者が、裁判になっても会社が負けないリストラ方法を立案しておきましょう。経営者や人事部の方はもちろん、65歳まで石にかじりついてでも会社に残りたい従業員の皆さんにとっても、相手の攻め口がわかれば守りやすいというものです。
リストラには2種類ある
従業員に辞めてもらう意味でのリストラには2種類あり、筆者はそれぞれ「見えるリストラ」「見えないリストラ」と呼んでいます。まず、見えるリストラとは何かというと、会社が辞めてほしい人を選んで「おまえはクビだ」と解雇するもので、誰が見ても「ああ、リストラやってるな」とはっきりわかるリストラです。
会社が対象者を好きに選べて単刀直入にクビに出来るわけですから、とてもシンプルですね。でもシンプルなぶん、これを実施するにはとてもとても厳しい条件が課せられます。
解雇の必要性があるか、解雇を回避するために出来るだけの努力をしたか、対象者は公平に選んだか、手続きはクリアだったか、という、いわゆる整理解雇の四要件を満たしているか厳しくチェックされることになります。
要するに、土俵際に片足のっかるくらいの状態にならないと、この“見えるリストラ”はまず使えないわけです。たとえば新卒採用を続けているとまず認められません。「切るのは50代の無気力なオジサンで、将来性のある新人は新規事業に必要なんです」というロジックは司法には通じません。あと、非正規雇用が残っていても認められない可能性が高いです。「正社員を切る前に非正規雇用を全員切れ」という身分制度みたいな判断を、冗談抜きで彼らはしているためです。
そして、何より恐ろしいのは、こういう整理解雇が認められるかは、実際に裁判になってみないと誰にも分らないという点ですね。具体例で言うと、今のシャープでも結構きついんじゃないでしょうか。JALなんていっぺん会社がつぶれてるのにいまだに解雇した元従業員から訴えられてて、しかもそれを(05年に職員を整理解雇して訴えられ、最高裁まで争った)社民党が支援するというワケのわからないアングルになっちゃってます。
たぶん、黒字事業部がすべてなくなり、新人も数年前から採用してなくて非正規も全員雇い止めにして、あとキャッシュもほとんどなくなった段階で、確実にGOサインが出せるのではないでしょうか。そんな段階でリストラ始めたってもう手遅れだと思うので、筆者なら意欲のある人材には早めに転職することをおススメしますけどね。
よく労働弁護士や法学者の中には「日本もきちんと手続きを踏めばリストラは十分可能だ」とおっしゃる人がいますが、その十分可能なリストラっていうのは、外堀も二の丸も全部落ちて本丸に攻め込まれた最後に、もうほとんどヤケクソになって自爆スイッチ押すようなもんだというのは覚えておいてください。
さて、そういう観点から見ると、IBMのリストラは非常に問題があるというのが明らかです。同社の2014年損益をみると、売上8810億円で経常利益947億円。新卒採用もコンスタントに300名以上を採用し続けています。「見えるリストラ」が認められる余地は限りなくゼロに近いと言えるでしょう。そりゃ赤旗にも目を付けられますね。
というわけで、今後も赤旗が鬼の首でもとったようにIBMリストラ内幕をさらす→「やっぱ大企業は恵まれてるなぁ、入るなら大企業だ」とむしろIBMの好感度アップ → ボリュームゾーンである中小零細企業や非正規雇用労働者の問題は放置、という不毛なサイクルが継続すると思われます。
以降、
IBMはなぜ地雷原に突撃をかますのか
大手日本企業で行われる「見えないリストラ」とは
人事コンサル作成“リストラマニュアル”から個人の防御法を考える
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2015年4月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。