機械と人間の共存

岡本 裕明

天才アインシュタイン博士ですら脳の使用率は数%程度ではないかとされるほど人間の潜在的能力は極めて高いものがあります。パソコンのハードの使用量を見ると初期の頃は空きスペースがほとんどないのに今はほとんど使っていなかったりします。もっと引き出せる能力があるのに出せないのはもったいないのですが、人間に於いても使用率は将来、もっと下がるかもしれません。


週末の将棋竜王戦。プロ棋士5人とコンピューター将棋ソフト5種が戦う団体戦「将棋電王戦FINAL」は2013年から始まり、今年が3回目でした。過去二回はコンピューターの勝利で人間は初の団体戦勝利に賭けていました。そして棋士2勝、コンピューター2勝で迎えたファイナルラウンド。阿久津主税八段が僅か21手で勝利したのですがソフトの特性、つまり弱みを徹底研究した結果であると報道されています。

人間が徹底して勝負に挑み、相手の弱みに付け入れたことはプロの棋士たちの頭脳の勝利といってよいでしょう。しかし、私は来年以降、この勝負においてプロ棋士の勝ち目はより一層厳しいものになっていくと思います。理由はソフトは同じ間違いを二度としないことであります。

もう一つ、人間の弱みの一つにメンタルがあります。乗っているときは十二分の力を発揮できますが、ダメなときはさっぱりです。今回の電王戦も人間側が必死だったし、乗っていたのでしょう。しかし、それをずっと維持できないのが人間の性です。スポーツの世界ではてきめんです。しかし、ソフトにはメンタルがないし、どれだけ長時間労働させても疲れないのです。

日経ビジネスの特集にAI(人工知能)があります。その進化しつつある技術にただただ驚きであります。グーグルの進める自動運転の車は既に100万キロ以上の走行実験をしていますが、一度も事故を起こしていません。それらの技術が完成した暁には高齢者の高速道路逆走やブレーキとアクセルを間違えてコンビニに突っ込むという事故も聞かなくなるでしょう。

昨年発表になり話題になったマイクロソフト傘下のスカイプの自動通訳機。今年にはいよいよ日本語英語の通訳版が発表されるようですがその能力は今までのまどろっこしく誤訳の多い自動通訳、翻訳の世界からは格段に向上しているとされています。日本語でしゃべるとアメリカ人がまるで会話のキャッチボールをしているように言葉を返してくるようになるのでしょう。

オバマ大統領とカストロ議長の会談の模様は世界に放映されましたがカストロ議長のスペイン語に対して通訳が寄り添うように同時通訳していたのが印象的でしたがそれも近い将来、見られなくなるのでしょうか?東京、目白には外国人向けの日本語通訳学校があり、そこに通う二人の生徒さんは当社のシェアハウスに住んでいます。将来どうしたいのか、と聞けば語学能力を生かして母国の日本企業などで活躍したいと夢を語ってくれました。その一方で言葉の壁が機械により取り除かれる日が近づいている事実をどう受け止めるか、複雑であります。

オックスフォード大学の論文から将来、機械によって淘汰される職業として、保険の査定担当、クレジットアナリスト、不動産ブローカーがトップ3となっています。これが現実なら池井戸潤の小説は時代劇と化してしまうのでしょうか?人間社会は労働と社会参加がその基本だと思うのですが、機械が稼ぎ人間はユートピアを享受する世界は私には全く想像できません。

フィナンシャルタイムズはアメリカ西海岸の港湾施設の処理能力が劣っていることを指摘していますが、その根本問題の一つに労働組合が機械化させないことがあるようです。自分たちの職を守るために体を張って戦うその姿は将来港湾労働者のみならず、世界中で巻き起こる紛争になりかねません。

我々がまだ生きている時代にその世界がやってくるとすればそれをどう受け入れ、人間と機械がどう共存していくのか、今からしっかりプラン作りをする必要があります。このままでは勝ち組と負け組があまりにも明白になる世界がひたひたと忍び寄ってきているように思えます。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

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