景気回復が格差を縮小する --- 井本 省吾

アゴラ

先日、ある中堅食品スーパーの人事部長に会った際、彼がこんなことを言った。


「人手不足で思うように従業員を集められない。それどころか、最近は採用した入社1、2年目の若手社員がかなり辞めて行く。中途採用先に転職するようだ」。

「面白いのは仕事の成績を上からA、B、Cに分けると、退社する若手の大半は最下位のCクラスだ。不況時は彼らを引き取る会社がほとんどないから、辞める人間は少ない。しかし、景気が上向いている現在は中途採用が盛んになっているので、Cクラスがどんどん辞めて行く」。

「こちらも景気がよくなると、人手が足りなくなるので、たとえCクラスでも辞められると困る。そこで退社した従業員の穴埋めのため、中途入社を募集する。すると、集まってくるのは大半がCクラス。結局、今の中途採用市場の多くはCクラスの人員がぐるぐる回っている格好だ」

聞いていてこんなことを思った。

Cクラスの若手社員は「この会社の仕事は自分に会っていないし、自分は余り重用されてもいない。ならば、もっと自分に会った、そして今より優遇される会社を選ぼう」と考えたに違いない。そして転職したのは今よりも労働条件の良さそうな企業だったからだろう。もちろん、必ずしも条件の良い会社とは限らないが、採用側は良さそうな条件を提示しているはずである。

若手社員に転職された会社も人手不足を解消するために、たとえCクラスの人間が受験しようともそこそこの好条件を提示したに違いない。

つまり、労働市場全体から見て、給与を中心にCクラスの人間の労働条件はそれまでよりも少しづつ上がっているはずだ。会社は人件費をあまり増やせないので、Cクラスの給与を上げた分、A、Bクラスの給与は引き下げないまでも据え置き気味となる。

結果としてA、BクラスとCクラスの格差が縮小することになるのではないだろうか。つまり、やはり景気回復→人手不足は従業員の給与水準を上げるだけでなく、格差も縮小傾向に働くといえる。

その縮小幅は少ないかも知れない。また、不況期も含む長期間で見れば、A、B、Cクラスの格差は徐々に開くだろう。だが、経済成長、景気上昇は雇用環境を良くすることは確かなのである。

それでも失業者は出る。非正規従業員を中心に生活困窮者は出る。その縮小は失業対策費や生活保護の充実しかないが、同時に職業訓練などよって能力を高め、働く場を広げるしかないだろう。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年4月17日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。